「にじさんじファンは面白がってくれるはず」ファンへの信頼で生まれたセーター
──今回「にじさんじ Christmas Wear~KD Sweater Style~」の担当者であるグッズプランナー・平田さんに企画の裏側をお聞きしていきます。まず初めに、この企画はどういう経緯で立ち上がったものだったんでしょうか?
グッズプランナー 平田(以下、平田):元々私が立ち上げた企画ではなく、チームの先輩が提案したものだったんです。その先輩が異動によってチームを離れることになったので私が引き継いだ、という形です。
企画の始まりとしてはプランナーたちが集まって、グッズの企画案を持ち寄る会議で出た案だったんですが、その時点ですでに「これは絶対いける」「にじさんじファンは絶対好き」と評価が高かったです。
「にじさんじ Christmas Wear~KD Sweater Style~」ビジュアル
──チーム内でも絶賛だったんですね。
平田:そうです。「にじさんじファンの皆さんはこういうグッズを面白がってくれるであろう」という根拠のない自信がありました。
──ファンの皆さんへの信頼、とも言えますね。先輩から平田さんに企画がバトンタッチしたのはいつ頃だったんでしょうか?
平田:今年の2月ぐらいだったかと思います。企画立案以外、進行作業のほとんどを担当しました。
──なるほど。ここで話の本筋からは少し外れてしまうんですが、平田さんたちが行うグッズ制作について、企画提案から商品発表までの流れを教えてください。
平田:企画としては、商品や企画によりますがだいたい8カ月前から動き始めることが多いです。年間のざっくりとした予定を見ながら案出しをして、企画書をまとめます。企画書が固まったあとに、必要ならライバーさんのビジュアルを発注し、完成したらデザインが動き始めるんですが、そこからデザインが上がってチェック出しして入稿して……と怒涛のように続きます。その後校正、つまりサンプルを見ながら調整していきますが、それがだいたい発売の3カ月前ですね。
──デザイン出し以降は本当に怒涛の勢いで進行していきますね……! KDセーターは2024年の冬に発表できそうなものということで企画されたんでしょうか。
平田:いえ、当初から受注販売でご案内することが決まっていたんです。皆さんおっしゃってたんですけど、初めてトライする企画ということもあり、どこまでの反響になるかが読めなくて……。冬にお届けすることを逆算した結果、8月にご案内することになりました。つい真夏のクリスマスになってしまったんですが、結果として、どこよりも早くクリスマスグッズを提案できたのは逆に利点でしたね。
──ここ数年、いろんなコンテンツグッズとしてアグリーセーター※が作られるのが密かなブームになっているなと感じているんですが、それも影響したんでしょうか?
※ホリデーシーズンにおける一種のジョークグッズとして、柄のユニークさを楽しむセーター。
平田:そうですね。立案した先輩は感度が高い方で、いろんなコンテンツのアグリーセーターが登場していたので「にじさんじでもやろう」ということになったんです。
──ちなみに、“KD”とはなんの略ですか?
平田:……ご想像にお任せします(笑)。
「にじさんじ Christmas Wear~KD Sweater Style~」のラインナップ。
もっと着づらくあれ、ダサくあれ……アグリーセーターならではのオーダー
──このセーターの特徴をお聞かせください。
平田:とにかく着づらくダサくすることです。アグリーセーターですから。デザイン上では着やすく見えるかもしれないんですが、実際には「普段着としてはなかなか着られないぞ?」というものに仕上がっております。
でも、ボディはちゃんとしたジャガード織です。ざっくりとしたニットの編み目の見える編み方ではなくて、今回のような細かい柄が再現できるよう編み目が詰まったものなんです。デザイン的に普段使いとしては難しいかもしれないんですが、セーターとしてはすごくしっかりと作られています。ネットの反応を見ると「にじさんじフェスに着ていきたい」という方が多かったですね。
──「にじさんじフェス」は寒い時期の開催ですから、防寒としてもいいかもしれませんね。さて、全部で6デザインありますので、それぞれのこだわりポイントを教えてください。
平田:まずイブラヒムさんのデザインは、ハイブランドが作るアグリーセーターのイメージでした。石油王というプロフィールからイメージを膨らませていって、そこに落ち着いたんですが、着やすいほうだと思います。真ん中のイブラヒムさんと虎、そしてマラカスおばけはフェルトワッペンなんです。けっこう立体的になっていて、かわいく仕上がりました。
「にじさんじ Christmas Wear~KD Sweater Style~」より、イブラヒムのセーター。
イブラヒムのセーターのワッペン部分。
──確かにリッチなデザインですね。お次はシェリンさん。ご本人の通常衣装がモチーフですか?
平田:そうですね、裏側にはてなマークやクリスマスモチーフをちりばめて、表とはガラッと変えています。これは裏話ですが、デザインの確認をお願いしたらシェリンさんから「ダサさが足りないです」というフィードバックがあり……(笑)。デザイナーさんに初めて「もっとダサくしてほしい」とお願いしました。
「にじさんじ Christmas Wear~KD Sweater Style~」より、シェリン・バーガンディのセーター。
シェリン・バーガンディのセーターの側面。
──通常はもう少しスタイリッシュにできるようお願いしますからね。「もっとダサく」はこの企画ならではのオーダーだと思います。セラフ・ダズルガーデンさんのデザインは、着てみると体が小さくなったように見える、というものですね。
平田:このセラフさんの体のイラストは、にじぬいのボディがモチーフなんです。首から下がにじぬいになっていたら面白いんじゃないかなと。セーターについてさらに説明すると、にじぬいイラストの周りの柄はデザイナーさんが「画像編集ソフトなどの背景透過をイメージしたら面白いんじゃないか」とおっしゃってくださったので、採用させていただきました。
「にじさんじ Christmas Wear~KD Sweater Style~」より、セラフ・ダズルガーデンのセーター。
──なるほど! グレーと白のおしゃれなチェック柄だと思っていたんですが、お話を聞いてからはもう透過にしか見えなくなりました。
平田:わかる人が見たら「あ、透過してるんだな」とわかってくれるかも、と思っていました。実際、SNS上でもけっこう気づいている方がいらっしゃいましたよ。月ノさんのセーターは、とにかく耽美なビジュアルのセーターを着ていただきたいという一心で、そういうテーマのビジュアルを撮り下ろしていただきました。星導さんは見た通り宇宙とタコがテーマで、ここもご本人のプロフィールがモチーフになっています。
「にじさんじ Christmas Wear~KD Sweater Style~」より、月ノ美兎のセーター。
「にじさんじ Christmas Wear~KD Sweater Style~」より、星導ショウのセーター。
──お次はチャイカさんですね。6つの中では一番インパクト大なアイテムです。
平田:ライバーさんにデザインを3パターンぐらい提案したんですが、チャイカさんの場合は私たちが「これしかない!」と思っていたものを選んでいただけてうれしかったですね。そもそも企画自体が少し変わっているので、オファーの時点でライバーさんに断られる可能性も考えられたのですが、ありがたいことにそういうこともありませんでした。デザインについては第1希望の案で通ったものがほとんどです。
「にじさんじ Christmas Wear~KD Sweater Style~」より、花畑チャイカのセーター。
背中側では花畑がウインクしている。
──そうだったんですね。ちなみにこの企画を通じてご苦労されたことはありましたか?
平田:柄の再現や細かな点の修正に苦戦しました……。たとえば月ノさんのデザインを例に上げると、セーターの編み地であのビジュアルを再現しようとするとお顔がデフォルメされてしまうんです。描写の細かさがこのビジュアルの持ち味なので、デフォルメされるとダサさが薄れてしまい、クオリティとして「ダサさが足りない」という判断になりました。そのためビジュアル部分は編み地からプリントに変えたり、別の方法を考えざるを得ませんでしたね。
星導さんはご覧いただいてわかる通り何色も混ざったデザインなので、どうやって編んで再現しようか……と悩みました。結果、星導さんはボディ部分は編地なんですが首周りのタコはプリントです。この企画はセーターのサンプルを5回、6回作ってもらっているんですよ。普通のグッズ企画はサンプルを2~3回出してそれを確認してОKを出せる、というものが多いので、これは回数としてかなり多いです。
──柄がふんだんに編み込まれているのがアグリーセーターの特徴であるだけに、避けては通れない問題ですね。
平田:はい。先日ようやく、納得のいくクオリティでお届けできると感じたものができました。あと……ずっと見ているからかだんだんダサく見えなくなってくるんですよね。「全然普段も着られるじゃん」と思うようになっていました。チームの皆さんは「しっかりダサくて、いい」と言ってくれていましたが。
話題を集めた“にじさんじ真夏のクリスマス”、ファンの反応に担当者はどう思う
──8月の発表直後、一時Xのトレンド入りを果たすなど反響が大きい企画になりましたが、ファンの皆様の反応をご覧になっていかがでしたか?
平田:初めてのアグリーセーター企画ということで、情報解禁の日はちょっと日和ってしまっていたんですが、皆さん大変ポジティブな反応でとてもうれしかったです。おかげさまでご注文も予想を大きく超える数をいただきました。発表も夏でしたし、「もっと着やすい物を作れ」というご意見もあるかと思っていたところ、ファンの皆さんのほうが面白がってくれたのがありがたかったです。
──企画発案者の先輩から何かコメントはありましたか?
平田:セーターが完成して、商品写真を撮影するときに一緒に作業をしていたんですが、「話題になると思っていたよ」とおっしゃっていただけました! あと今回は、ライバーさんに実際にセーターを着て配信していただく、という告知をお願いしていたんですが、今までにはなかった告知の仕方だったのでより注目していただけたんだと思います。どういう配信で着ていただくかもライバーさんにお任せしていたので、それぞれの方法での告知が見られて楽しかったです。
「『似合う口紅を作ってくれるマシン』で同僚に口紅を塗りたくろう!」の中盤で、月ノがセーターを着て登場する。
──ライバーさん6人ともそれぞれ工夫してご紹介されていましたね。さて、平田さんはほかにもたくさんの企画を担当されてきたと思いますが、今回のKDセーター企画はそれらの中でどういう位置づけの仕事になりましたか?
平田:やっぱり「すごく話題になったもの」という印象です。いろんな企画を担当させていただいたのですが、KDセーター企画はすごく話題になりました。ファンの皆さん・社内ともに注目度も高かったなと感じていて、それだけに「なんとしても12月にはお届けしなきゃ……!」というプレッシャーも少しだけありました。
企画自体は心から楽しみながら進めていくことができてよかったと思っています。でも達成感のようなものはまだ感じていないですね。セーターを買っていただいた皆さんのお声が私にも届いたら、次第に達成感も感じられるんじゃないかと思っています。
──なるほど。いよいよこれを読んでいるファンの皆さんにもセーターが届き始める頃合いかと思いますが、最後にお買い上げいただいた皆さんにメッセージをお願いいたします。
平田:お届けが遅くなり申し訳ありません。皆さん、たくさん着てください。これに尽きます!
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