古典は昔の人の感性を閉じ込めたタイムカプセル
――この度はご著書「ゆるゆる古典教室 オタクは実質、平安貴族」の発売おめでとうございます。早速本の内容について詳しくお聞きしたいところなのですが、まず前提として栞葉さんが古典作品に引き込まれるようになったのはどういう出来事がきっかけだったんでしょうか?
栞葉るり(以下、栞葉):小学生の頃まで遡るんですけど、担任の先生が百人一首の中から「朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪」という和歌を紹介してくださったのがきっかけでした。先生はそのとき「この歌は『夜に外が明るいなと思って窓の外を見たら、雪がキラキラ輝いていて月明かりみたいできれいだなあ』という意味なんだよ」と教えてくださったんです。
この歌を詠んだのは1000年くらい昔のすごく偉いおじさんですが、そんなに昔の人が現代の私たちと同じようなことを感じていたということを実感して、「私って1000年前の人と地続きなんだ。異世界の人くらい遠くに感じていたけど、同じ感性を持っているんだな」と身近に感じられたことがすごく面白くて! ですから古典作品は書かれた当時の人たちと繋がれるタイムカプセルのようなものだと思えて、すごく好きになっていきました。
【るりと読む古典】2024年共通テスト出題作品「車中雪」を読もう!【栞葉るり/にじさんじ】 34:30~から古典が好きになった理由が語られている。
――表現の方法は違えど、感性は現代人の私たちと同じだということに親しみを感じたんですね。
栞葉:そうですね。それこそよく配信で話している「枕草子」は「癖毛で髪の毛がきれいに伸びないから病む」とか「昼間から親がリビングでイチャついていてキツい」みたいな文章が残っていて。文章の面でとっつきづらい部分はどうしてもありますけど、読んでみるとすごく親しみが感じられて面白いです!
――そんな栞葉さんが感じる古典作品の魅力を踏まえて書籍についてお聞きしていけたらと思います。まず出版のお話がきたとき、率直にどういうお気持ちでしたか?
栞葉:もしかしたら失望されちゃうかもしれないんですけど……「いやいや、何を言ってるんですか」と思いました。何度もお話している通り、本当に古典が好きな“だけ”なんですよ。いわゆる大学とかに通って古典作品を専攻して一生懸命勉強してました、というわけでもないので。
このインタビューを読んでいらっしゃるということは、読者の方々はにじさんじのことがすごく好きだと思いますが、「にじさんじ好きなんでしょ? じゃあ『にじさんじアーカイブス』の編集者になってよ」と言われたら、皆さん多分「いやいやいや……」と尻ごみされると思うんです。感覚としてはそれにすごく近くて、「え、大丈夫かな……」と思っていました。
――恐れ多い、ということでしょうか。
栞葉:うーん、単純にそんな器ではないと思っていました。本当に好きなだけで、知識がいっぱいあるわけでもないので。にじさんじの看板をお借りしてる以上、配信にはいろんな方が見に来てくださるので、そんなに難しいことを言えなくても古典普及のために一役買えているかな、と思えるんですけど、書籍は買っていただくというハードルがありますから。そのハードルを飛び越えるほどのものを提供できる気がしなかったんです。
学生時代に部活動のような形で同人誌を作った経験があって、たとえアマチュアだとしても本を作るためにどれだけ手間と時間とお金がかかって、それを売ることの大変さもなんとなく身にしみて分かってはいたんです。ですからなおさら、商業として本を作ることのハードルを高めに感じていました。
――なるほど、本作りの過程を知っているからこそ、さらにプレッシャーになっていたんですね。
栞葉:はい。書籍って配信よりも触れるハードルが高いものだとは思うので、そのプレッシャーを乗り越えていろんな方々に協力していただき、書店に並ぶということが想像できなくて……。だから最初は「いや……やめといた方がいいんじゃないですかね……?」みたいな感じではありました(笑)。
――最初は及び腰だった栞葉さんの気持ちを変えたきっかけはなんだったんですか?
栞葉:KADOKAWAの担当編集さんにうれしいお声をかけていただいたこともそうですし、「詳しくは言えないけど、ちょっとハードルの高いお仕事のチャンスがあって。やってみたいんだけど、でも自信がなくて……」という話を友達にしたら、「やった方がいいよ!」って背中を押してしてもらったこともきっかけにはなりました。
でも一番はファンの皆さんからの応援ですね! 「栞葉のおかげで学生時代ぶりに古典に触れる機会ができたよ」「古典がすごく苦手だったけど、栞葉が話しているって思ったら古典が好きになったので、成績が上がって志望校に受かりました」といったお便りをいただいて、そのことがすごくうれしくて! 「こんなふうに喜んでもらえるんなら挑戦しようかな」と思えたんです。
――すごく素敵なお話です。ファンの皆さんが“好き”を原動力にしてがんばる姿に、栞葉さんも背中を押されたんですね。
栞葉:はい! でもそうやって行動できる人って、別に私がいなくてもいつかそうやって好きな気持ちを形にしたり、一念発起してがんばれたりできていたと思うんです。でも私が、その大事なきっかけの1つになれたのはすごく光栄なことですし、そのことを伝えに来てくださった気持ちに報いたいので、「ええー、できないよう」とか言ってる場合じゃないなって思いました。
――ちなみに同期の立伝都々さんとミラン・ケストレルさんは書籍化についてどんな反応をされていましたか?
栞葉:同期と言えどもまだ確定していないタイミングで伝えることはできなかったので、「だからあんなに忙しそうだったんだね」とは言われました(笑)。長らく「何してるかわからないけど、なんだか変に忙しそうな人」でい続けたので、やっと説明ができてちょっとほっとしましたね。基本的にお互い自由に動くことをよしとしてる人たちなので「やりたいことができてよかったね!」というようなことを言ってもらえました。
「ゆるゆる古典教室 オタクは実質、平安貴族」 ©Shioriha Ruri 2025 ©2025 ANYCOLOR, Inc./KADOKAWA刊
「すごい! 1つも終わってない!」ドタバタの執筆期間を振り返る
――書籍の制作作業をすべて終えられた今、一番記憶に残っていることはなんでしょうか?
栞葉:なんだか面白みのない回答かもしれないんですけど、忙し過ぎて記憶があまりなくて……(笑)。こうして口にしてしまうと「あのとき忙しくて必死だったのかな」と、ファンの皆さんが配信アーカイブを純粋な気持ちで楽しめなくなっちゃうと思うので、何度も言いたくないんですけどでも、本当に大変で……! これはもう私の計画性の無さが悪いんですけど、3Dお披露目の準備や配信にまつわる諸々と、この執筆の一番忙しい期間が全部重なってしまって「ちょっとヤバすぎ!」って思いながらがんばっていました。
書籍の作業ってやっぱり配信以上に準備が必要で、勉強も改めてたくさんしなくてはいけなくて、なんなら執筆よりも勉強し直していた時間の方が長かったですね。でもなんだかんだがんばれたのは、やっぱり古典が好きだからでしたね。いろんな作品に触れたり知識を得たりすることがつらいとは思わなかったです。作業量的には大変だったんですが、やってること自体は楽しいからなんとかなる……みたいな。綱渡りみたいな時期でしたね(笑)。
――確実に体力も精神力も削られているけど、楽しいから全然できちゃう!というような。
栞葉:そうですそうです(笑)。「眠りたい……楽しい……ああでも眠い…けど楽しい……」みたいな感じです。喉元過ぎれば熱さ忘れる、じゃないですけど、今思えばこんなふうに目が回るくらい忙しい時期が人生で1回ぐらいあってもいいのかなとは思っていて。しかもライバー生活と執筆というすごく楽しいことで目を回せていたのは、振り返ってみるとすごく貴重な体験で人生の宝物になったと思います。
――忙しさはありつつ充実した期間だったんですね。
栞葉:はい。あと、執筆からは少しずれちゃうんですけど……。特典CDというものがございまして、倉持めるとさんをお招きしていつも配信でやっている「ゆるゆる文学教室」のようなことをCDでやろうというものなんですね。その特典CDの収録台本は、もちろん私が用意しなくてはいけないんです。これ、本当の本当に笑い事じゃないし、倉持さんを始め関わってくださった皆さんに本当に申し訳ないと思ってるんですけど、当日の朝まで書き終わらなくて……!
※CDは事前予約のみのカドスト限定版に付属する特典となり、現在は購入不可。
台本以外にもいろんな作業が重なっていて「すごい! 1つも終わってない!」と思いながら必死にワーッて準備をして、現場でスタッフさんにワーッて謝って、倉持さんにもワーッて頭を下げて台本をお渡しして。リハをする余裕がない状態で一発で収録するという……。それでも倉持さんが聞き手としてすごくお上手な方なのでちゃんと形になったと思います!……が、あの慌ただしさというか限界ギリギリ感はすごく印象残っています。皆様、あのときは本当にすみませんでした……。
――もしかしたら特典CDを入手された皆さんも、このドタバタ感を含めて楽しんでいただけるんじゃないかなと思います。
栞葉:そうですね……。すんごくドタバタしてたんだなと思いを馳せて聴いていただければと思います……。
【栞葉るりのゆるゆる文学教室】第一回 拳で語る平安貴族【ゲスト:倉持めると】
――これは余談ですが、とても忙しいときは心の支えになるものがあればうれしいですよね。ファンの皆さんやライバーさんたちの声援もあったかと思いますが、執筆期間の栞葉さんはほかにどんなことが心の支えになっていましたか?
栞葉:配信でもたびたび話しているんですが、高校時代からのすごく仲のいい友人がいまして。彼女はお料理関係の仕事をしていて、お休みの日になると私が必死に作業をしている裏で美味しいご飯を作って食べさせてくれるんです。それがかなり息抜きになりましたね。本のあとがきでも書かせていただきましたが、いつも本当にありがとう……!
執筆中に注意したことは「面白いと思うことに障壁が生まれちゃダメ」
――ではいよいよ、本の内容により深く踏み込んでまいります。栞葉さんが先ほどおっしゃっていた通り、古典作品の親しみやすさを伝えるのが特徴となっていますが、そのために執筆の際に気を遣っていたことはありますか?
栞葉:いつもの配信だと時事ネタをガンガン入れたり、そのとき流行ってる作品の話を交えながら説明したりするんですが、 それは配信というリアルタイムで届けられる媒体だからこそできることですよね。だから今回その手は使えないなと思っていました。書籍となると、数年後に読む方もいらっしゃるでしょうし、そもそも書いてから世に出るまでもタイムラグが発生するので、あまりに時事ネタすぎると「何だっけ?その話」と余計に理解しづらくなってしまいますから。数年後に読んでも理解に支障がないかどうか、はすごく気にしていました。
あとは細かいところですが、古典作品の作者・登場人物って名前がすごくたくさんあるんですよ。役職がついたり結婚したりして名前が変わることもあって、本当にたくさんある名前を全部正しく採用しちゃうと「このときはこう呼ばれてて、このときはこう……」みたいに、訳がわからなくなってしまいますよね。ですから、例えば作者名であれば一番代表的でかつ学術的に正しい名前で統一して、必要な場合は注釈で「このときはこう呼ばれていた」と分かりやすくしよう、という努力はしました。でも分かりにくかったらごめんなさい……!
――栞葉さんは本の中で「古典解説書ではありません」「テスト勉強や受験対策にこの本を用いるのはやめておきましょう」と書かれていますが、それでも今後残っていく資料として間違ったものにはしたくない、というお気持ちを感じます。
栞葉:そうですね、やっぱり書籍である以上長く愛していただきたいという気持ちはありますし、関わってくださった方のためにもいい本だと思われたいですから。エンタメとして楽しむにしても、意味の分からない数年前のネタで盛り上がってると面白くなくなっちゃうと思ったので、正しさ・分かりやすさは担保しつつ時事性をできるだけなくしましたね。年単位で楽しめる内容にしつつ、面白いと思うこと自体に障壁が生まれちゃダメだ、ということはすごく考えていました。
実際手を動かしてみると、難しいなと感じはしました。でも配信と違って言葉を吟味する時間があるのが執筆期間のいいところだなと思っていたので、改稿を進めたり編集さんに相談したりしつつ楽しい作業でしたね。
――表現を選びながら、すごく丁寧に進められていったんだなと感じました。ちなみに、書籍内にはとてもたくさんの作品解説が収録されていますが、取り上げる作品は栞葉さんがピックアップされたものだったんでしょうか?
栞葉: はい、章ごとにどういうテーマにするかを決めた後に「そういう話をするにはどういう作品が一番分かりやすいのかな」という視点から、自分で選びました。
――なるほど。では、第四章の「源氏物語」の主人公・光源氏の行いを裁判風に議論する「実際どっち!? 光源氏裁判」は、「源氏物語」をわかりやすく解説するためのアイデアだったんですか?
栞葉:「源氏物語」はずっと紹介したいと思っていたんですが、ただ内容がすごく長いのと、どの角度から取り上げるのかが難しかったんです。登場するたくさんのお姫様の視点から紹介するのもそれはそれで面白いですし、お姫様でもなく光源氏でもない脇役の角度から読んでもけっこう面白いんですが、やっぱり「源氏物語」がネット上で一番話題になるのは「光源氏はクズなのかどうなのか」という議論じゃないかと思ったんです。
「光源氏は女たらしのクズだった」「いや、そうじゃない」という議論は定期的に起こりますよね。そういう、「1度はなんとなく見たことがある議題」などが載っている方が読みやすいし、「源氏物語」は授業で多少取り上げるので、読んでくださる方自身も議論に参加している気持ちで読めるような題材としてちょうどよかったんです。
結局光源氏ってクズなんですか?【栞葉るり/にじさんじ】
――そうだったんですね。読者の皆さんには、“裁判”の結末をぜひ本で確かめていただきたいです。ちなみに数多くの解説の中から、栞葉さんが最も楽しんで書けたのはどの作品ですか?
栞葉:やっぱり「枕草子」ですね。基本的には配信で取り上げたことのない作品を中心に選んでいたんですが、「枕草子」だけは本当に私の根幹に関わる作品だと思うので、配信で取り上げたことがありますけど載せました。やっぱり一番よく読み込んでる作品でもありますし、思い入れの強い作品でもあるので楽しんでスラスラ書けた記憶です。
――やはりお好きなぶん、思い入れも強かったんですね。
栞葉:「枕草子」って、私の中では「自分の好きを伝える作品」という認識なんです。清少納言が「定子様が大好き!」という思いを後の世に残すために書いたと私は勝手に思っているんですけど、これってVTuberのファンの皆さんにも通じるところがあるんじゃないかと思います。布教シートや切り抜き動画を作ってくださったり、ファンアートを描いてくださったりする方もいらっしゃるので、共感してもらえるんじゃないかと思うとすごく力が入りました。……あっ、こういう言い方をすると「栞葉って自分のことを定子様だと思ってる?」と思われるかもしれませんが、そういう意味じゃありませんから!
――(笑)
栞葉:好きなものに対するまっすぐな姿勢とか「これが好きって伝えたいんだ!」というキラキラした雰囲気が、ファンの方々も一緒だなと思うことで、最近より思い入れが深まっていますね。だから「伝われー!」と思いながら書きました(笑)。
――ファンの皆さんも「枕草子」へのイメージが変わるんじゃないかと思います。ちなみに「玉水物語」など、教科書の範囲では触れる機会が少ないような作品も取り扱われていますが、「これを載せることができてよかったな」と思える作品はありますでしょうか?
栞葉:うーん……! 私がインターネットの古典好きオタクたちの沼に浸り切っているから感覚が壊れている可能性もあるんですけど、正直わからないですね……。実は選定基準として「1回でもネットで話題になったことがある作品」というものがありまして。「玉水物語」は何年か前のセンター試験か何か取り上げられて「設定がニッチすぎる」と話題になってたり、「更級日記」も「オタクの日記過ぎる」という理由で定期的でバズってたり、けっこうメジャーどころを選んだつもりだったんですけど……!
「玉水物語」はお姫様に恋をしたオスのキツネが性転換して人間の女の子・玉水となって、お姫様とイチャコラする……みたいなところが取り沙汰された作品だと思うんですが、私は「玉水物語」は玉水の人柄だったり、お姫様と玉水が本当はお互い好きだったのかも?ということを考察したりと、話の内容自体が面白いところが魅力だと思っていたので、注目されていなかった部分を自分なりに取り上げられてよかったと思っています。
――なるほど。授業などでなんとなく内容を知っている、という物語も多いですが、栞葉さんの解説によって新しい視点で楽しむことができそうですね。
栞葉:「これってどうやって楽しめばいいんだろう?」というのが、古典に対する多くの人の見解だと思うんですよ。なので、一旦私なりの読み方というか「こんなふうに面白いと思っています」とお伝えすることで、共感する部分や「それは違うと思う!」という意見が出てくることがあると思います。そうやって自分なりの楽しみ方を見つけてくださったらすごくうれしいですね!
――例えばアニメや漫画などでも、ほかの人の考察を読むことでちょっと考えが変わったり意識が深まったりすることがありますよね? そんなふうに自分とは違う考察や新しい視点を取り入れられる本でもあるんだな、と感じました。
栞葉:そうです、そうです! それこそ流行ってるアニメの考察をネットで漁る、くらいの気持ちで読んでほしいですし、私の意見もそのくらいの軽さで捉えてほしいなと思っています。
「エンタメとして古典を親しみやすく」というテーマを大切に
――この書籍の著者はもちろん栞葉さんですが、監修として「源氏物語」など平安文学を研究されている加藤昌嘉先生がご参加されています。加藤先生に監修をご依頼した理由はなんだったんでしょうか?
栞葉:百人一首に「めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半の月かな」という紫式部の和歌があるんですが、加藤先生はこれは女性同士の和歌だという研究をされているんです。それがすごく面白い内容で! それと、加藤先生でしたらあまり怒らないでこの本を読んでくれるんじゃないかと思って、思い切ってお願いしました。
――なるほど、もともと加藤先生の研究内容にご興味があったんですね。実際の制作のやり取りは、栞葉さんの書いた原稿を加藤先生にチェックしていただいて、学術的な視点でご指摘いただく……というものだったんでしょうか?
栞葉:そうですね。私もそうだったんですけど、たぶん「監修」という言葉だけ聞くと、密に打ち合わせを重ねて……というイメージの方が多いと思うんです。もちろんそういう工程でできる本もたくさんあると思いますが、今回は編集さんに間に立っていただいて、加藤先生から訂正した方がいいところをご指摘いただいていました。言ってしまえば事務的なやり取りなんですが、逆にそれが私としてはありがたくて。直接やり取りをすると、変な言い方かもしれないですけど、「(栞葉は)がんばっていてえらいな」「(先生は)なんでも知っていてすごいなあ」という情のようなものが湧いちゃうかもしれないと思ったんです。
ですから、とにかく情報が正確なのかをしっかり確認することに務めていただけたことが、私としてはすごくありがたかったです。加藤先生が正しいか正しくないかを見てくださるので、逆に私は一旦好きに書いてみることができました。それと、最初にご依頼をしたときに「古典をエンタメとして楽しんでほしい」というコンセプトにすごく共感していただけたことがうれしかったです! 真剣に研究をされているからこそ、「軽い気持ちで触れるのはちょっと……」という研究者の方ももちろんいらっしゃると思うので、理解していただけるかどうか不安だったんです。
――「エンタメとして古典を親しみやすく」というのは、今回の書籍の一番大事なテーマでもありますからね。
栞葉:そうなんです。だから執筆中は「私のバックには加藤先生がついているから絶対に大丈夫……!」という気持ちを持つことができました。物語がどんなふうに人々に受容されていくのかという点については、加藤先生はけっこう柔軟と言いますか。「みんなそれぞれに楽しみ方があるんだよ」というご意見の方だと感じています。
【1分古典】平安貴族、推しのイメソンを考える【栞葉るり/にじさんじ】
書籍化は「好き!」を受け取ってくれたファンのおかげ
――栞葉さんは執筆するにあたって改めて勉強をされたとおっしゃっていましたし、文章を書くという行為を通じて古典作品の解釈が改めて深まったのではないかと思われます。執筆期間を乗り越えて古典作品に対して考え方が変わったことは何かありましたか?
栞葉:単純に知識が増えたので楽しめる領域が広がったな、と思います。「南総里見八犬伝」など江戸時代の文学について特に知識が増えました。でも向き合い方や捉え方自体は逆に変わってないかもしれませんね。「好きだな」という気持ちから始まって、本ができるまでその気持ちを持ち続けることができたので、あんまり変化がないというか、むしろもっと好きになったという感じがします。
生活するうえで「大変だな」「忙しいな」と思っても古典に触れて楽しい気持ちになったり、勉強すること自体が楽しかったりしていたので、今までの人生において少なからず生活の活力になっていたんです。だから人生をよくしてもらっていたという部分で、この学問に恩を感じていたんですよ。なので、もし私の本をきっかけに古典を好きになってくださる方がいるかもしれないと思ったら、「古典に恩返しができたのかもしれないな」と少し感慨深くなりました。
――栞葉さんもおっしゃる通り、この本をきっかけに古典作品が好きになるファンの方はいらっしゃると思いますので、皆さんのご感想が楽しみですね。
栞葉: そうですね。些細なことが人生を変えるような大きなきっかけになる、ということは私自身が身をもって体験しているので。小学校時代の先生が解説してくれたあの和歌に触れて、「意味わかんね」って共感することができなかったら、ここまで来なかったかもしれません。何が人生を変えるかは本当に分かりませんから、もしこの本が誰かの人生をよりよくするきっかけになって、さらにそれが古典という学問をより繁栄させるきっかけになったらすごくうれしいなと思っています。
――素敵なお話を本当にありがとうございました。それでは最後に、発売を心待ちにしていたファンの皆さんにメッセージをお願いいたします。
栞葉:ただ古典が好きなだけの犬である私が本を出そうと思えたのは、私の「好き!」という気持ちを受け取ってくださった皆様のおかげです。本当にありがとうございます。いつも配信では「インターネットで発信していることなので、丸々信じないでほしい」と最悪なことを言っているんですが、書籍は1年かけて勉強しながら書きましたし、ちゃんとした監修の先生もついてくださっているので、信じてくださって大丈夫です!
もしかしたらファンの皆さんは「栞葉が書いた本だから」ってすごく真剣に読んでくださるかもしれません。それ自体はとてもうれしいんですが、気軽に読めるように書いたつもりなので、任意の清涼飲料を飲んだりお菓子を食べたりしながら、なんなら栞葉の本だっていうことを忘れるくらいの気持ちで楽しく読んでいただけましたら。書籍化に至るまで支えてくださって本当にありがとうございます。あなたが楽しんでくれることを心から願っております。