テーマソングのオファーに歓喜「やる気に満ち溢れていた!」
――弦月さんは「にじさんじ甲子園2024」の際にテーマソング「YELL」を自主制作され、2025年大会では、ぱんだ立どじゃ高校(以下、どじゃ高)のオリジナルソング「8.31」を手がけられました。これまでの歩みを踏まえて、「にじさんじ甲子園」の公式テーマソング制作のオファーを受けた際、率直にどんなお気持ちでしたか?
弦月藤士郎(以下、弦月):今までのテーマソングやチームのオリジナルソングは個人的に制作したものだったので、今回イベント全体のテーマソングという規模の大きい楽曲制作のお話をいただき、最初は半ば信じられなかったですね。でも、以前からテーマソングの制作に挑戦してみたかったので、ライバーとファンの皆さんの心が大きく揺さぶられる「にじさんじ甲子園」の楽曲を作らせていただけると聞いたときは本当にうれしかったです。もうやる気に満ち溢れていましたね!
――弦月さんの熱意が伝わってきました! 制作に取りかかる際、まずはどのような準備をされたのか教えてください。
弦月:いろんなチームの試合を観て、これまでの「にじさんじ甲子園」を振り返りつつ、知識を深めるために改めて野球のルールも勉強しました。せっかくオファーをいただいたからにはご期待に応えたかったですし、「素敵な曲を作りたい」という思いが強かったので、できる限りの準備をして制作に臨んでいます。
――なるほど。にじさんじの夏の風物詩とも言える「にじさんじ甲子園」は、勝負の熱さだけでなく、ライバーさんたちの思いや熱量が交差して生まれるドラマも大きな魅力です。今回テーマソングを制作するにあたって、「にじさんじ甲子園」の魅力を表現するために弦月さんが一番大切にされた点はなんでしょうか?
弦月:「にじさんじ甲子園」は規模が大きく歴史も長いイベントなので、ライバーもファンの皆さんもそれぞれ思い入れがあると感じていたんです。だから、特定の方向に偏ることなく、できるだけたくさんの方に寄り添える曲にしたいと思いました。それと今回は「『にじさんじ甲子園』の今までとこれからを彩るテーマソング」として捉えていたのもあり、これまで積み重ねてきた情熱と新しさの両方を表現できるように意識しましたね。
――大切にしたいポイントを楽曲に落とし込むために、どんな工夫をされたのかもお聞きしたいです。
弦月:個人的に制作してきた「にじさんじ甲子園」の楽曲では、チームの物語を感じる言葉を入れてもいいかもと思っていたんです。でも今回はイベント全体のテーマソングとして、“枠組み”を作ることを大事にしました。曲を1つの箱に例えたときに、大会で生まれたフレーズを詰め込むと特定のチームを彷彿とさせる曲になってしまうと思い、皆さんの記憶に残っているようなフレーズはあえて使わないようにしたんです。
――イベント全体のテーマソングですから、これまで制作された楽曲とは視点が変わったんですね。
弦月:そうなんです。「にじさんじ甲子園」を楽しんでくださるすべての方が熱い気持ちになれる曲を目指しました。
輝かしい日々、流した汗や涙……“ダイヤモンド”に込めた意味
――弦月さんが手がけられた「にじさんじ甲子園」のテーマソング「Afterglow」でこだわったポイントを教えてください。
弦月:特にこだわったのは、「野球」や「青春」という大きなテーマに沿って、情景描写を多めに取り入れたところですね。聴いてくださる方が「野球」や「青春」と聞いてイメージする光景を曲の中に投影し、それぞれの青春時代を振り返って「またがんばろう」と思えたらいいな、と。そんなふうに、誰かの背中を押せる曲になってほしいという願いも込めて、どんな描写を入れるか考えていました。
――弦月さんが思い描いていた情景と重なるかはわかりませんが、歌詞を拝見したときに、主人公が1人で立っていたグラウンドに仲間が増え、最後は熱戦を繰り広げる選手たちをファンの皆さんが応援している……そんな映像が広がりました。
弦月:まさに今おっしゃってくださった情景をイメージしていました。実は昨年、どじゃ高のオリジナルソングを作ったとき、最初に書いた歌詞を見たマネージャーさんから「もう少し視野を広げて、個人だけでなく全体に目を向けてみてもいいかも」とアドバイスをいただいて。今回のテーマソングでは個人の思いや葛藤も描きつつ、チームみんなで前へ進んでいく感じを出せたらと思っていました。
――なるほど。歌詞の中で弦月さんが特にこだわったフレーズも教えてください。
弦月:1番のサビの歌詞は特にこだわっているんですが、その中でも「嗄れる声にすら気づかぬくらいに 繋ぐ日々のダイヤモンド」はこの曲にとってかなり重要なフレーズだと思っています。特に「ダイヤモンド」にはいろんな意味合いがあって、「輝かしい日々」というのは流した汗や涙を“日々の結晶”と捉えて「ダイヤモンド」と表現したかったんです。それに、野球ではホームベースと3つの塁を結んだひし形のエリアを「ダイヤモンド」と呼ぶので、野球の要素も含められる。皆さんそれぞれが自分にとっての「輝かしいもの」を思い浮かべてもらえたらと思い、この言葉を入れました。
ちなみに、サビの最後のフレーズ「その先の景色を見に行こう」は、次に続いていく架け橋のようなイメージで後から入れたんです。サビの最後はみんなで「おー!」と掛け声を上げ、気持ちを1つにして進む……みたいな雰囲気で終えられたらいいなと考えていたんですが、ずっと決まらなくて「最後の1行どうしよう」ってめちゃくちゃ悩んでしまい……。
――そうだったんですね。ストレートに心に響く歌詞ですし、韻が踏まれていて聴き心地もすごくいいなと感じました。
弦月:僕は韻を踏むのが好きなんですよね。僕の曲や歌詞の好きなところとして「聴き心地のよさ」を挙げてくださるファンの方も多いので、今回の曲にも自分らしい表現として取り入れたかったんです。ただ韻を踏みつつ、サビをきれいに締めくくるのがすごく難しくて。
特に、ラストのサビの「繋ぐ日々のダイヤモンド」と「その先の景色を見に行こう」の間にあるフレーズ「ひとつずつ重ねる栄光」はすごく悩みました。「『栄光』を入れるとドラマチックすぎるかな?」と迷ったんですけど、タイトルの「Afterglow」に込めた思いと重なる部分がありましたし、最後の「見に行こう」と響きも揃うので、「栄光」を入れることにしたんです。
――たくさん考え抜いた結果の「栄光」だったんですね。続いて、伴奏についてもお伺いします。Bメロから陰りのあるメロディに変化し、心の揺らぎを感じさせる展開になったあと、後半からドラムの刻みが細かくなって駆け上がるようにサビへ向かう流れが印象的でしたが、この展開にはどのような意図があったのでしょうか?
弦月:疾走感を大事にしたかったのと同時に、青春のいろんな側面を描きたかったんです。例えば部活って、仲間との軋轢や自分では答えが出せない問題に直面して、家に帰ってから1人で悩んでしまう……みたいなこともありますよね。楽しいだけじゃなくて、葛藤や迷いもある。僕はそれこそが青春だと思うんです。だから情景の変化を表現するために、転調したり、テンポ感を速めたりしてサビに向かう流れにしました。
青春をもう一度味わい、その先にある景色をみんなで見に行きたい
――テーマソングのタイトルについても伺っていきます。「Afterglow」は残光や余韻を意味する言葉ですが、このタイトルにたどり着くまでにはどのような背景があったのでしょうか?
弦月:タイトルもめちゃくちゃ悩んで、最初は輝かしい栄光や勝利を表す言葉、「ワンチーム」みたいな野球やスポーツの熱量を感じさせるタイトルも考えていました。曲に合うカッコいい言葉をいろいろと探しているうちに、ふと「青春は“思い返すときに実感する”ものなんじゃないかな」と気付いたんです。例えば、部活を引退した後に「大変なこともあったけど楽しかったな」と感じたり、仕事やプライベートで取り組んでいる何かが終わったときに「がんばったな」「こんなふうにできたらもっとよかったな」と振り返ったり。
――確かに、真っただ中のときは目の前のことに夢中になり、過ぎ去って初めて「かけがえのない時間だった」と気付くものですよね。
弦月:そうですよね。その感覚を「Afterglow」の意味と重ね合わせて、「自分が輝いていた瞬間を思い返して、青春をもう一度味わってほしい」という思いと「その先の景色をみんなで一緒に見に行こう」というメッセージを込めました。
今回のテーマソングは「にじさんじ甲子園2026」本戦のオープニングに流れるとお聞きしたので、まずは「Afterglow」を聴いてイベントを楽しんでいただけたらなと。そして「にじさんじ甲子園」が終わった後に改めてこの曲を聴いて、この夏の青春を噛み締めてもらえたらうれしいです。こうしたたくさんの思いと「皆さんに長く愛していただける曲になりますように」という願いを込めて、「Afterglow」と付けました。
――「にじさんじ甲子園」はもちろん、ファンの皆さんの日々を彩る1曲になるのではないかと思います。ちなみに弦月さんはこれまでも数多くの楽曲を制作されていますが、タイトルを決める際のこだわりはありますか?
弦月:僕は曲を作るとき、基本的にタイトルが先に思い浮かぶタイプなんです。今回は曲が先だったので、曲のネタバレをタイトルでしないようにすごく悩みました。歌詞がある程度できていたので、「ダイヤモンドはどうかな」とも考えてはみたんですけど、やっぱりちょっとネタバレすぎるかもと思って(笑)。後からタイトルを付ける難しさを、今回改めて感じましたね。
よいゆめの魅力を再確認「声の相性がめちゃくちゃいい」
――歌唱を担当された今宵、××と夢を見る。(以下、よいゆめ)の皆さんの歌声をお聞きになったとき、どう感じましたか?
弦月:バンドや皆さんが個人で歌われているカバー曲は聴いていましたが、自分が作った曲を歌ってもらうにあたって「よいゆめの皆さんに寄り添える曲になっているかな」という不安があったんです。でも、全員の歌声が重なったパートを聴いた瞬間、「よいゆめに歌ってもらえてよかった」と思いましたし、「皆さんの声ってめちゃくちゃ相性がいいな」と感じました。全員が歌う魅力があるのはもちろん、それと同時に、ソロパートではそれぞれの個性が光る。それがよいゆめの魅力なんだと改めて実感しました。
――とてもみずみずしく、心にまっすぐ届く歌声ですよね。弦月さんはディレクションも担当されたと伺いましたので、レコーディングを振り返っての感想もお聞きしたいです。
弦月:作曲者がレコーディング現場に立つときは、自分で作品の方向性を言語化してボーカリストに伝えなきゃいけないと思うんです。普段はあまり緊張しないタイプなんですが、今回は自分の中で考えていたイメージをうまく伝えられるか少し不安もありましたし、自然と身が引き締まりました。
今回のレコーディングでは歌い方よりも、「積み重ねてきた時間の先で、夢を掴んだ瞬間の喜びを表現してください」「仲間の背中を押してあげるような感じで」といった、表現してほしいイメージを中心に伝えていたんです。もしかしたら「ここはもうちょっと力強く歌ってほしいです」「このフレーズはここを意識してください」みたいに、具体的に説明できたほうがよかったかもという反省もありますが、よいゆめの皆さんが僕の意図を汲み取り、歌声で応えてくれたおかげで、いい作品に仕上がったんじゃないかなと感じています。
――今回は情景描写にこだわったからこそ、言語化するのが難しかったのではないかと感じました。よいゆめの皆さんとのエピソードで印象深かったことはありますか?
弦月:ボーカルブースへ入っていく皆さんの表情が少し不安そうに見えたんですが、レコーディングを終えて出てきたときに「楽しかったです」と言ってくださったんです。それが印象的でしたし、とてもうれしかったのを鮮明に覚えています。最初は皆さん緊張されていましたが、その中で最大限のパワーを発揮してくださったし、コミュニケーションもしっかり取れて、充実したレコーディングになったと思います。
――よいゆめの皆さんが感じた楽しさが歌声に表れている気がします。ちなみに、楽曲をお聴きになったライバーさんからどんな感想があったのかも伺いたいです。
弦月:同期(長尾景、甲斐田晴)は「いいね」と「ぽいね」でした(笑)。2人ともめちゃくちゃ褒めてくれて、「ここの部分はこうなんだね」と細かい部分に対しての感想もくれたんですけど、ダイジェストで言うと「いいね」と「ぽいね」です(笑)。ただ、一緒にいるときにさらっと曲を流しただけだったので、しっかり聴いてもらった後にまた感想を教えてほしいですね。ほかにもいろんな方の感想を聞きたいし、よいゆめの皆さんが実際に歌ってみてどう感じたかも聞いてみたいです!
「Afterglow」は聴くシーンによって表情が変わる曲
――少し話題が変わるのですが、弦月さんは2025年4月にエニマガへご登場いただいた際、「ライブなどを経て『自分が形にできるものがあるんだな』と自覚した」とおっしゃっていました。そこから1年以上経ち、作家としての活動を本格的にスタートされた今と当時で音楽への向き合い方の変化はあったのでしょうか。
弦月:当時から自分の中でインプットとアウトプットがとても増えていたので、音楽に向き合うスタンス自体に変化はないですね。ただ、作家としての活動を本格的にスタートさせてから、自分がやりたいことをより形にできるようになり、今回のテーマソングのように挑戦できる機会も増えてきました。その中で、今までは「目の前のお仕事に精一杯向き合おう」という気持ちだったのが「新しいことにも手を伸ばしていきたい」に変わっていったんです。そうした意識が自分の中に芽生え始めたのは、いつも支えてくださる皆さんがいるからだと実感しています。
――活動の幅が広がるにつれて、これまで以上に挑戦を楽しめるようになったんですね。
弦月:そうですね。それに、「新しいことにチャレンジしたい」というベクトルは同じでも、ライバーと作家では目標が全然違うので、両方の活動が互いを高め合ういい刺激になっています。ライバー活動では、にじさんじに入ったきっかけである「ライバーさんをサポートしたい」という思いを根底に置きつつ、いちライバーとしてもっともっといろんなステージに立ちたいですし、そのための努力をしていきたいと思っています。作家としては、自分がこれまで作ってきたような曲だけでなく、新しいジャンルの曲にも挑戦していきたいです。
――ライバーと作家、どちらの舞台でも活躍される弦月さんの姿をこれからも楽しみにしています! それでは最後に、「Afterglow」がライバーさんやファンの皆さんにとってどんな曲になってほしいか、弦月さんのお気持ちを教えてください。
弦月:「Afterglow」は、聴くタイミングによって表情が変わる曲だと思っています。初めて聴いたとき、何かに挑戦している最中、そしてすべてをやり遂げた後。聴いてくださる方がその時々で何を感じ、どう印象が変わったのかをご自身で味わいながら、楽しんでいただけたらうれしいです。