Rain Dropsのときからともに歩んできた戦友が、緑仙のソロ活動を支える
緑仙
──金子さんは、アーティスト・緑仙の活動においてどういった役割を担っていらっしゃるのでしょうか?
Virgin Musicプロデューサー・金子(以下、金子):私は緑仙さんの制作周り全般とプロモーション、ライブセット、タイアップを取ってくる仕事をしています。基本的には緑仙さんに関わるところ全部を担当させていただいているので、プロデュースも含まれていると思います。
普通のレコード会社は、制作やプロモーションなどでそれぞれ担当がいると思うのですが、私はボーダレスに全体を見てお仕事をしていて、普通のレコード会社の担当とはちょっと違います。
緑仙:な、なぜ? 優秀だから……?
金子:それはですね、私がいろいろな仕事を覚えていったんです(笑)。個人的な話になるのである程度は割愛しますが、Rain Dropsの皆さんと出会うまでに、いろんなバックオフィスの仕事だったり、YouTubeの起ち上げだったり……ほかにもアーティストと契約をしに行ったり、プロモーション担当をしたり、気付いたらレーベルのデジタル部門の部長もやってて。「あれ、1人で全部できるじゃん」ということになっていたんです。
緑仙:あーあ、1人でできちゃった(笑)。でもそれだけ全部見てるっていうのは、プロデューサーという肩書になるんじゃないの?
たぶんプロデューサーって言うと、みんなソシャゲのイメージで、スーツを着ている人を思い浮かべるとは思うけど。
金子:そうですねー。プロデューサーって響きはいいですよね(笑)。
緑仙:かっこいい響きですよね(笑)。
金子:でも私はプロデューサーって、ものすごく責任を負うポジションだと思っているので、自分から進んで「プロデューサーです!」とはなかなか言わないです(笑)。
緑仙:え? じゃあ言わない方がいいの?(笑)
金子:代わりに、「制作もプロモーションもライブもやってます」と話をさせてもらっているんですけど……。
緑仙:プロデューサーじゃん。
金子:はい(笑)。
──これまで経験されたいろんなお仕事の中でも、一般のアーティストとVTuberのアーティストとでは、どういった違いがありますか?
金子:やっぱりVTuberさんってレコード会社からすると新しいコンテンツなんですよね。たぶんレコード会社だけじゃなくて、マスメディア全体の中でも新しい立ち位置に置かれていると思います。
緑仙さんは今年でVTuberとしても7年目で、かなり長いキャリアになってきているとはいえ、やはり比較的に新しいコンテンツであることには変わりありません。Rain Dropsの立ち上げをしていた5年前と今を比べても、VTuberという市場は別物になっていますし、VTuberを知らないお客さんにどういうふうに見てもらうかというのも常に考えていかないといけないので、今でもプロデュースにおける明確な答えが見えているわけではないんです。
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金子:もちろんそれに関しては緑仙さんともよくコミュニケーションを取っていて、新しいVTuberの市場が変化していくにあたって、音楽でどんなアプローチをしていけばいいのかというところは常日頃から考えてます。
例えば、音楽に付随するいろんなものを作るにしても、VTuberは特殊ですよね。普通のアーティストであれば、どこかに行ってメイクしてアーティスト写真を撮影しましょう、となりますがVTuberは全然違います。普通のアーティストはフェスやライブも土壌ができているので、そこにどうやってアプローチしていくか、というのが見えるのですごく強いですよね。
でもVTuberはそういった土壌+αで新しいことに挑戦していく必要があって、そのうえで一般の人たちにも知ってもらう必要がある……っていうのが一番の違いですね。人ってやっぱりわかりやすいもの、慣れ親しんでるものを認識していきやすいですけど、VTuberとなると、普通のアーティストとはちょっと違う印象があるじゃないですか。
緑仙:よくわからない存在ですよね?(笑)
金子:でも持っている芯に関しては、人と変わらないわけですよ。
緑仙:意外と一緒のところあるじゃんみたいなね。バーチャルっていうから素っ頓狂なものが出てくると思ったら、話してることは意外と友達みたい感じだな、っていうのがそもそもVTuberの流行りのきっかけだったりするから、そのギャップはめちゃくちゃありますよね。
金子:そこの認知が圧倒的に足りないというのは、私も一緒に制作とかプロモーションをしていて感じます。今年「イタダキマスノススメ」で初めて全国行脚してプロモーションさせていただきましたけど、緑仙さんもテレビ局とかラジオ局の人と話していて「VTuberっていう界隈は、世間的にはまだまだスタートラインなんだな」っていうのはすごく感じたと思うんですよね。だからこそVTuberはまだすごい可能性があると私は思っていますし、なんだかんだ緑仙さんとも5年の付き合いになるのでこうして一緒にチャレンジできる関係でいられることはうれしく思います。
緑仙 – 2nd MINI ALBUM「イタダキマスノススメ」通常版
物作りが大好き、表現をすることが大好きという想いが、緑仙を「アーティスト」として昇華している
──緑仙さんは、楽曲制作に関してテーマ決めの段階から一緒に参加されていると伺いました。そのように制作の上流から携わりたいとお考えになった背景、こだわりなどの想いをお聞かせください。
緑仙:Rain Dropsやソロでメジャーデビューする前から、自分で自主制作としてオリジナル曲を出したりアルバムをサブスクで配信したりしていたんです。それらは、自分が想定しているものをどのように形にして出力していくか、っていう作業として「このクリエイターさんに依頼して」「このアーティストさんに依頼して」って進めて、作品を作っていたんですね。
でもチームで何かを作る、自分以外の人の考えや思惑が関わって一緒に何か作品を作っていく、という作業はメジャーデビューしてから初めての経験だったんですよ。その中で、自分は制作初期の段階から呼んでいただけるのであれば、ぜひとも最初の段階から呼んでほしいってマネージャーさんに伝えたのが最初の背景です。
それは、それまで1人でオリジナル曲を作っていた時間が長かったので誰かと何かを作るっていう経験がしたかったのと、せっかく皆さんがこねこねして出力してくださったものを僕が見て「なんか思っていたのと違うぞ」ってなるのが嫌だったからです。本当に伝えたい部分はこういうところで、だからあえてこういうふうにしてたんだけど……っていうのが、人間をたくさん介した結果、意図しない形になっているというのを避けたかったんですよね。
これはたくさんの人が協力してくださっている大きいプロジェクトだからこそ起きうることだと思うんですけど。前にね、「なんでこうなっちゃったんだ?」じゃないですけど、思ってたのと違うぞっていうことがあったんですよ。そういう齟齬があったとき、話を聞いても全然納得できないとか嫌じゃないですか。みんないいもの作りたいだけじゃないですか!(笑)
僕は、やりたいこととか伝えたいこととかが他人よりちょっと多いタイプの人間なので、打ち合わせの段階や案出しの段階から、なんだったら「資料とか用意するから参加させて! 一緒に作らせて!」って、それくらいの勢いで作品を作ることが個人的に大好きですという気持ちを伝えました(笑)。
緑仙 - MAJOR 1st MINI ALBUM『パラグラム』XFD
──緑仙さんの物作りへのこだわりを感じる、クリエイター気質な一面が背景にあったのですね。やるからにはいいものを作りたいぞという、全力投球をしたかったということでしょうか。
緑仙:そうですね。だから自分はもっとこれから音楽に対して、作品を作ることに対してアピールをしていかないと説得力ないですし、そのときに「ここまで関われますよ」「ここまでチャレンジしたいです、やらせてください」っていうのを具体的に出していかないとなって思ったんです。具体性に欠けていたら、ただのわがままですからね(笑)。そうした流れで、打ち合わせに参加させてもらったり、「イタダキマスノススメ」からは歌詞制作もやらせていただけるようになったんですけど、本当にありがたいです。
そしてここからちょっとずつ言葉や態度だけじゃなくて、ちゃんと作ったものでいいものを出せるようになれば、「緑仙がここまでのものが出せるんだったら、この打ち合わせにも呼んでいいよね」とか「この現場にも呼んでみようか、よかったら来てみない?」とか言っていただける機会がもっと増えたらいいなと。自分の力でできることはなるべく自分の力でやっていきたいなって思ってます。「いいものを作ろう!」っていうメンバーの1人として、ちょっとずつ認めてもらえるような人間になれるように日々精進していますね(笑)。
──今の緑仙さんのお話を踏まえて、金子さんのご感想や所感はいかがでしょうか?
緑仙:ここは褒めるターンですよね……?
金子:そうです。褒めちぎるターンです(笑)。
緑仙:気持ちよくしてください(笑)。
金子:任せてください(笑)。ひと言で言えば、緑仙さんはRain Dropsの頃から本当に成長しました。やっぱりあの当時の緑仙さんは、配信者としての自分をしっかり持っていて、歌枠や企画を自分でできるっていうプロデュース能力が秀でていて、あらゆることを自分で模索しながらやれてるっていう自負もあったと思うんですけど、外でのお仕事や力っていう面は経験値不足ではあったと思うんです。
でも外の現場に触れることによって、どんどん自分の考えを瞬時にアップデートしていったのが本当に素晴らしいところだと思います。それは緑仙さんが常に意識をもって行動してるからこそできる、目指すものに対してしっかり努力ができているから伸びてる部分ではあると思います。やっぱり歌っていうのは一朝一夕ですぐ上手になるものでもないし、自分でどう表現するかを考えてしっかり積み重ねていかないと形にはならないものなので、この5年間しっかりと積み重ねてきたっていうところが表れているんじゃないかなと思っています。
それこそ今年の「イタダキマスノススメ」のタイミングで自分の歌について迷いが出てる部分があったと思うんですけど、でもそれは進化をしている証で、ちゃんと成長意識を持っていたからこそ生じた壁を打ち破るタイミングだと思います。そういうところがしっかりできているのは、なかなか普通のアーティストでもないことなので、素晴らしいなと思っています。
緑仙 - MAJOR 1st MINI ALBUM「パラグラム」通常版
金子:「パラグラム」を発売した日のラジオで「バンドサウンドで勝負して音楽イベントに出たいです」って言ってたと思うんですけど、緑仙さんが音楽の部分で明確にはっきりと意志表示をしたのは、私はあのタイミングが初めてだったと思うんですよね。「じゃあ緑仙さん、作詞やってみようか」とかの話につながっていくんですけど、そこからは楽曲を作るときには「実際にフェスに出ていくにはどうしたらいいのか」とか話しながら作ったりしてますよね。普通のVTuberのサウンドとは違う、音楽フェスに出ても負けないようなサウンドを作っていきましょう、って。
VTuberとしての緑仙さんのファンの人には「歌ってみたは好きだけど、オリジナル曲はちょっとチャレンジしすぎなんじゃない?」と思われるかもしれないけど、そのチャレンジがこの先VTuberというカルチャーをいろんな人が知っていく中で、音楽として「ほかのVTuberとは全然違うことをやっている」という武器になればいいなって思っています。そしてそれが音楽メディアにちゃんと伝わってるっていう部分、これが緑仙さんが成長したところだとも思っています。「ROCKIN'ON JAPAN」の編集部の方に「緑仙さんのいいところ」を聞いてみると、緑仙さんの世界観とか歌詞の言い回しとかに関して的確に回答していただけるんですよね。
それを今聞くと、緑仙さんが向かっている方向は間違っていないと思えて、私は誇らしい気持ちで緑仙さんと一緒に楽曲を作らせていただいてます。出会った当初は「ケータリング美味しいぜーわはは」みたいなインタビューしかなかったですけど(笑)。
緑仙:あはは、まあね(笑)。
金子:そういった音楽作りへの意識を土台にしたトークも本当にものすごく伸びてまして、ラジオのMCが特に成長著しいですよね。今年の地方キャンペーンのときはユニバーサルの地方宣伝部の方々から「ラジオスター」と呼ばれてて(笑)。
緑仙:呼ばれてましたね、もう笑っちゃいましたもん(笑)。
金子:緑仙チームには、私以外にも宣伝担当がいますけど、その人も緑仙さんのトークは全然心配してなくて、「やっぱり緑仙さんはトークも伸びたなー」って安心して見てます。
緑仙が火曜日パーソナリティを務めるFMラジオ「AuDee CONNECT」
誰かの心を揺さぶるものを作っていきたい、誰かの当たり前になりたい
──ソロデビュー1年を迎え、「緑仙チーム」としてこれからどういった挑戦をしていきたいか、展望をお聞かせください。
緑仙:そもそも僕が音楽やるっていうところで、決して「好きだからロックやりたい」とやってきたわけではないんです。でも「VTuberとして活動で自分の長所ってなんだろう」「バーチャル抜きにして自分のいいところってなんだろう」と考えたとき、そして「自分の人生観において心が揺さぶられた音楽はなんだろう」と考えた時に、「あれ? あのときもあのときも、僕にとってはロックがめちゃくちゃ大事じゃん」って気付いたんですよ。
そのときに、これらを掛け合わせたらどうなんだろうって思ったんですよね。人によって違うと思うんですけど、僕はVTuberって見ていて心揺さぶられるコンテンツだと思うんです。僕の好きなVTuberのいいところって、思ったより人間だったな、自分と一緒なんだな、っていう共感性や親近感が湧くところなんですよ。彼・彼女が悲しいときは自分も悲しいし、彼・彼女が幸せそうなときは自分たちもうれしい、っていうちょっと不思議なコンテンツだと思うので、だからそうやって感情が引っぱられる感じとかも含めて僕ならではの音楽表現としてやれたら面白いんじゃないかって思うんです。
緑仙:自分の感情を素直に伝える部分で、VTuberというコンテンツの長所を活かしたら、もしかしたら面白いんじゃないか……って思える機会を得られた、それをやりたいものとして自分で見つけられた、っていうのがアーティスト活動を通じてありがたいなと思ったところです。ここに至るまでにいろんな楽曲だったりチャレンジだったり経験させてもらえたっていうのをすごく強く感じた1年間でした。
そしてこれからは、個人的にやりたいことの方針が定まったはいいものの、それを実現するにはまだいろいろと足りてないですし、だからと言って「VTuberだからそこまでやらなくていいよね」みたいに諦めたくないし、まだまだ課題ややれることはたくさんあって……。ギターや歌詞は挑戦してるけど曲は作ってないよねとか、そもそもまだ全然音楽に詳しくなくて聞けてないジャンルたくさんあるよねとか、ちょっと考えただけでもたくさん浮かぶので、まずはそういった自分に足りないものをちょっとずつできるようになって、よりよいものをお届けできたらなと思います。
そのうえで、僕が見てるリスナーさんに対して「感情を揺さぶられるコンテンツ」と思って発信している自分の音楽は、金子さんには「尖った音楽だね」みたいなことをおっしゃっていただけて。意外と受け入れてもらえるというか緑仙らしいって思ってもらえるようなものになってると思うんですけど、最初に金子さんがお話しされてたように、VTuberというものはまだまだ認知が狭いのでね。
あまりに一気に急成長したので麻痺しがちですけど、世間ではまだまだ知らない人は多いですし、一般的にわかってもらいにいくいのは事実なので、誰にでも当たり前の存在になっていけるように、そしてそれが音楽の中で広まっていったら個人的にはすごく幸せだと考えています。……けど、チームとしてはどうなんですか? 金子さーん(笑)。
金子:緑仙さんのその考えは、アーティスト活動していくにあたって一番大切ですよね。大前提として、我々はそれらをサポートしていくところと、緑仙さんの引き出しを増やして、成長して伸ばしていけるようにするっていうのが役目かなと思っています。もちろんいろんな人に楽曲を聞いてもらうっていう目標もありますので、サポートという形だけでなく今後も一緒に作っていけたらなと思っています。今は私がプロデューサーとして入っているところもありますけど、最終的には緑仙さんは自分をしっかりプロデュースしていく、そういったアーティストになっていくんだろうなって感じています。
今後もね、いろんな人に聞いてもらうとか、ラジオでいろんな人と関わらせてもらうとか、それ以外のところでもほかのアーティストとコラボもさせてもらうとか……あとは今年全国ツアーもさせてもらってますけど、ほかにも「緑仙フェス」とか! そういったあらゆるところでこれからも一緒にやれたらいいなと思っております。
緑仙 2nd LIVE TOUR「緑一色」福岡公演キービジュアル
取材・文:株式会社KADOKAWA 大竹卓 監修:ANYCOLOR MAGAZINE編集部
緑仙 2nd LIVE TOUR「緑一色」
にじさんじ ↗