アーティスト・樋口楓のやりたいことを実現していく
樋口楓
──まずはレーベルご担当者のおふたりにお伺いします。アーティスト・樋口楓の活動において、おふたりはどういった役割を担っているのでしょうか?
Lantisプロデューサー・吉江(以下、吉江):自分はプロデューサーという立場から、樋口さんのアーティストとしての立ち位置や目指すところなど、大きな枠組みを考えています。以前は楽曲制作などのアーティスト活動に携わっていたのですが、今現場を仕切っているのは長尾くんですね。
もちろんは僕の方でもいろいろと把握はしていて、口を出したり手を出したりすることもありますが、最終的には樋口さんがやりたいかどうかに基づき、僕たちがその実現をサポートする形です。
Lantisディレクター・長尾(以下、長尾):僕は吉江が立てた大きい方針に基づいて現場レベルの小さい方針を立てて、動かしていくのが仕事です。最終的な意思決定は常に樋口さんが「どうしたいか」にありますので、それを実現できるように現場を整えることが、僕の役割です。
楽曲制作はもちろんのこと、樋口さんの音楽をいろんな人に聞いてもらうための宣伝活動だったり、パッケージを作るときにもパッケージデザイン、パッケージを売っていく販促・営業活動など、全体的な現場コーディネートを担当させていただいています。以前「にじさんじアーカイブス(※)」で吉江と僕が対談に参加させていただいた際に、「よしP」「ながD」というふうに名乗ったのですが、その名の通りディレクター=現場監督的な立場と理解していただければと思います。
※にじさんじアーカイブス:以前、毎年発売していた「その時のにじさんじライバーの魅力を詰め込んだファンブック」のこと。「にじさんじアーカイブス2020-2021」にて、樋口楓×Lantisの対談を収録した。
──もしよろしければ、おふたりのそういった役割分担について、具体的な一例などあればお聞かせください。
長尾:直近の具体例で言うと、先日発売されました2ndアルバム「GAME GIRL」の中に「MML」という曲があるのですが、これは樋口さんがこよなく愛する「マビノギ(mabinogi)」をテーマにした楽曲なんです。
樋口楓「MML」Music Video【オンラインRPG「マビノギ(mabinogi)」コラボ楽曲】
長尾:そういった「マビノギのゲームを題材にした楽曲を制作しましょう!」という、楽曲の制作とアルバムへの入曲という大決定は吉江の方で行いました。まさにプロデュースですよね。
その後、「どういう楽曲にするのか」「作家は誰にするのか」「ミュージックビデオ(MV)などはどうするのか」といった、小さい方針は僕の方で決めました。それこそ今回「MML」は樋口さんに作詞していただきましたが、実際に樋口さんに作詞していただくかどうかという部分も、僕の方で舵取りをしながら決めさせていただきました。
ほかにも「せっかくマギノギをテーマにするんだったら……」ということで、マビノギを運営するネクソンさんにご相談して、「楽曲をゲームで使用してもらう」「MVは実際にゲーム内で撮影する」といったことも僕の方でやりとりをさせていただきました。
──ここまでにお伺いしたおふたりの役割を踏まえて、それぞれのお立場からどのように樋口さんの楽曲制作やアーティスト活動に臨んでいらっしゃるのか、大事にしていることを教えてください。
吉江:一番最前に立つのはアーティスト本人なので、「アーティスト本人がきちんと言葉で説明できることを、制作チームとして実現していけるようする」というのが、大きな方針の1つとしてあります。
長尾:僕はその方針のもと、樋口さんがやりたいことや形にしたいものをなるべく多くの制作スタッフ、社内外の関係者に、その熱があるまま伝えていくということが大事だと思っていて、「樋口さんと志を同じにして物作りをし、熱いままに提供する」「情熱をもってちゃんと仕事する」を信念としています。
【全曲試聴動画】メジャー2ndフルアルバム『GAME GIRL』/ 樋口楓
──逆にアーティストである樋口さんから見て、普段お持ちのおふたりに対して感じていることや、今の話を伺ったうえでの感想をお聞かせください。
樋口楓(以下、樋口):同じチームのメンバーとして、ずっと私を担当してくださっていてありがたいという気持ちです。ほかの案件とかで忙しいときでも、おふたりのどちらかが必ず現場に来てくださるので、おふたりとも現場が好きな印象もありますね。
特に一番感じるのは、人と人とのご縁を大切にされているところです。おふたりのお仕事は、例えばアーティストさん以外にも制作会社さんだったり、クリエイターさんだったり、制作に携わる方々につなげてくださるお仕事でもあるので、いろんな方とのコミュニケーションがすごく上手で、いい方々に囲まれていると感じています。
もちろんおふたりも人間的に素晴らしくて、それこそ大事にしてることとして挙げてくださった部分は、私自身も日々すごく感じているところです。私が「こうしたい」「こういうことをやりたい」という気持ちがあれば、まずはすぐに確認をしてくれるんです。それこそさっきのネクソンさんだったり、楽曲制作のアーティストさんやジャケット写真・アーティスト写真をお願いしたい作家さんだったり、すぐに連絡をとってくれます。
それと私の要望を叶えてくれるというところで言うと、私があんまり歌いたくない曲を作らないというか……。「このままだと私あんまり気が乗らないな」みたいなところを感じとって、「じゃあこうしようか」「こういうふうに修正しようか」みたいなものをすぐに提案してくださるので、大事にしていただいているなって思います。すごくアーティストに寄り添ってくださって、いろいろと夢を実現させてくださっていると思いますね。
VTuberだとかバーチャルだとか、そんな壁は意識しない、目指すものは「樋口楓」であることだけ
──アーティストデビューから5年の間に楽曲制作やアーティスト活動に対する向き合い方に変化はありましたか? 特に世の中のVTuber/バーチャルアーティストという存在がとても一般的にも浸透してきていると思いますので、そのあたりを踏まえてお気持ちをお聞かせください。
樋口:自分自身の向き合い方にそこまで大きな変化はありません。ほかのVTuberさんやバーチャルアーティストさんは時代に沿った、いわゆるインターネットで回りやすいような楽曲や施策に挑戦していると思うんですが、私はデビュー当初から時代とか世の中とかではなく、自分が歌いたい曲を作りたいという気持ちで臨んでいます。
樋口楓 「MARBLE」Music Video【3/25発売メジャー1stシングル「MARBLE」収録】
樋口:そもそも私は「バーチャルとリアルの壁をなくすような活動をしたい」という思いでLantisさんにアプローチをしてデビューさせていただいているので、あんまりインターネットとかVTuberというものを意識した活動は今も昔もしていないと思っています
でも世の中では、バーチャルアーティストさんがたくさんデビューしていたり、VTuberさんのオリジナルソングがYouTubeとかTikTokでバズったり、アーティスト活動以外にもストリーマーさんやプロ雀士さんとゲーム配信するように、VTuber以外の人たちとの関わりが増えてきたり……そういうところでVTuberというものの敷居はどんどん低くなっていていますよね。
それこそイラストレーターさんや声優さんもVTuberの身体で配信されたりもしているので、そういう意味では近寄りづらいイメージみたいなものはなくなったんじゃないかなって思います。そのおかげで、私も堂々と気にせず歌えるというか、ほかのアーティストさんのラジオに呼ばれたときなども特に説明をしなくても受け入れてもらえて、「樋口楓です」という自己紹介で通る印象があります。そういう意味でも、世の中ではVTuberという存在が世間に浸透してきていると思います。
──世間でVTuberやバーチャルアーティストという存在が受け入れられていることを感じつつも、樋口さんご自身としてはいい意味でそういった時代性や流行を気にせず、自分らしさを一番にしているんですね。
樋口:そうですね。一番大事なのは自分が歌いたい曲で、自分らしさを出すことなので。だから、今聞いてくださってるファンの方々ならここで樋口楓らしさを感じてくれるだろうからそこを調整したいとか、私はこの楽器の音が好きだからそこをもうちょっと出したいとか、そういうクリエイティブな面では口を出したり前に出たりしますね。大前提のテーマとしては、いい意味で世の中に媚びない、自分の歌いたい曲を作っている実感はあります。
──Lantisのおふたりはいかがでしょうか。
吉江:Lantisから樋口楓がデビューするにあたって、「アニソンアーティストとしてアニソンをどうやって歌っていくか」っていうのがテーマの1つだったんです。だから初期の頃は「VTuberだから樋口楓にタイアップを歌ってもらおう」というように、まずはVTuberであることをとっかかりにアニメのタイアップを取りに行く、という意識でやっていました。今はアニソンシンガーを名乗ってもらっていますが、タイアップを1曲歌ったらアニソンシンガーなのかっていうとさすがにそれは難しくて、やっぱり継続していくことが大事です。最近はようやく目指していた「アニソンシンガー・樋口楓」に辿り着きつつあって、「VTuberの樋口楓だから」ではなく、「アニソンシンガーの樋口楓だから」この曲のタイアップを歌ってほしい、と言ってもらえるところが見えてきています。
樋口楓 「キュンリアス」Music Video【TVアニメ「転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます」OP主題歌】
吉江:そういう意味ではVTuberという存在が自然と皆さんに受け入れられるものになってきたということも感じられますし、何よりこの5年間で樋口さんが樋口さんにしか歌えない曲を歌ってきたということが認知されてきたんだと思います。だから変わってきたのは周りの環境や世の中で、我々はずっと変わらず続けている。バーチャルアーティスト含めて歌を歌っている人たちはたくさんいますが、一番タイアップの数を持っていて、新しいアニソンを歌い続けているのは間違いなく「樋口楓」だと思います。
長尾:5年前にVTuberの樋口さんという存在がいて、一緒にどういう楽曲を作ろうかと考えたとき、普段樋口さんがどういうことを考えているのか、どういう活動をしたいのか、というところの情報源は日々のYouTube配信でした。ですが、あれから5年が経ってVTuberという存在がいろんな方に知れ渡り、インターネットを飛び出した活動が増えた結果、そのインターネットの外側からヒントやアイデアを得ることが増えてきました。
それこそリアルな実店舗とのコラボもそうですし、実際のアパレルブランドさんとにじさんじさんでコラボしてグッズのプロデュースも手がけられていますよね(外部リンク)。普段僕らがアニメ界隈・コンテンツ界隈で聞くような範疇を飛び出して、どちらかと言えばリアルの芸能人さんやアイドル・タレントさんがやられるような界隈でのコラボをたくさん見る機会が増えてきました。それを見て、我々もそこから新しいヒントやアイデアをいただくことも増えてきましたので、音楽の幅も広がってきたと思っていますね。
これからも樋口楓らしさを大事にして、いつか樋口楓があらゆる垣根を越えることを目指したい
──「チーム樋口楓」として今後どういう楽曲を世に出していきたいか、世間にどういうインパクトを与えたいか、展望をお聞かせください。
「Higuchi Kaede 2024-2025 LIVE Tour “BREAKING”」東京公演ビジュアル
樋口:やっぱり私はいい意味でブレない・媚びないと思うので、これからも周りに左右されずにそのときそのときの自分の気持ちや想いを形にして曲を作って歌っていきたいです。でも少し心配なのは、どうしても私の根本的な性格は変わりようがないというか、価値観がまるっきり新しくなることってもうないと思うので、だからこそ自分が歌いたいテーマはなかなか変わりづらいということです。いつも同じ歌を歌ってるようになってしまわないか怖いんですよね。
そういうとき、ながDが「このアーティストさんとか知ってる?」と教えてくれたりして、いろんなアーティストさんを知って、関わることによって新しい気付きが得られることがあるんです。だから自分自身の考え方や向き合い方は変えずとも、いろんな人を知って、関わっていくことで、「これはいいな」「こういう曲がいいんだな」と感じた部分を取り入れていって、自分なりの飽きられない活動をしていきたいなと思います。
吉江:樋口さんの考えはその通りだと思っていて、だからこそ我々は我々なりに樋口さんの世界が広がるような「気付き」を提供したいと考えてます。実はアニソンってずるいんですよね(笑)。アーティストの世界観だけじゃなく、アニメの世界観も借りて、かけ算できるような部分があるんです。だから我々は、樋口さんと組み合わせの良いタイアップ、作品との出会いをきちんと準備することで、樋口さんのフィールドが広がっていくようにしたいと思います。その結果、「樋口楓とはこういうアーティストである」といった独自性がより出てきて、生き残っていけるものにできたらチームとしていいなと思っています。
長尾:やっぱり今の主流は音楽配信、動画サイトのMVなどを皆さんに見て聴いていただくというところですが、音楽としてはその中でより多くの人々にしっかり届けていくことがとても大切なので、「普段は樋口さんの配信を見ていないしJ-POPくらいしか聞いてないぞ」といった方たちにも届けられるような楽曲を日々作っていきたいと思っています。
具体的な目標としては、例えばApple MusicやSpotifyといった配信サイトの有名なプレイリストにリストインされるような作品を作っていくことです。アニソンだとかVTuberの歌だとかそういった垣根を越えたところに届くような制作や宣伝をできるように、日々がんばっていきたい。たくさんの人に聞かれる楽曲たちに引けを取らないように、我々も感度が悪くならないように臨みたいです。
「Higuchi Kaede 2024-2025 LIVE Tour “BREAKING”」東京公演ゲスト情報
取材・文:株式会社KADOKAWA 大竹卓 監修:ANYCOLOR MAGAZINE編集部
Higuchi Kaede 2024-2025 LIVE Tour “BREAKING”
にじさんじ ↗