ライバー活動と学生生活で多忙な高校時代
──家長さんはこれまでどんな学生生活を送られてきたのでしょうか?
家長むぎ(以下、家長):デビューしてから現在に至るまで、ずっと学校に行きながらライバー生活をしています。デビューしたのは中学3年生で15歳のときなのですが、今は大学生で21歳になりました。
小学生のときは図書室の本を端から端まで読むのに夢中で、どんな本でも好き嫌いなく読むような子供でした。友達もいたのですが、 どちらかというと内向的な性格だったと思います。何回か転校したので、すでに出来上がったコミュニティに後から入ることが多く......なんとなく周りと馴染めなかった経験があります。
小学校高学年ではクラス内でニコニコ動画が流行っていたので、ゲーム実況や歌ってみたを見ていました。実はニコニコ超会議に1回だけお客さんとして行ったこともあるんです。あのときの自分は、まさか出演者側になってイベントを楽しむことができるなんて夢にも思わなかったです。
あとは、小学4年生から祖父母の家で過ごすことになり、祖母にたくさん面倒を見てもらっていました。なので、おばあちゃんっ子らしい生活を送っていましたね。なんて言えばいいんですかね、地域のゴミ拾いを心から楽しんでやっているような子供でした。
──外で遊ぶよりも、本を読んでいる方が楽しいと思うような小学生時代だったんですね。中学高校時代はいかがでしょうか? 部活動などはされていましたか?
家長:中学校時代は部活をやっていなかったです。高校のときに一瞬軽音楽部に入ったのですが、ライバー活動がかなり忙しく退部してしまいました。高校も週に3回登校できたらいい方みたいな感じで......。
高校に進学したタイミングでライバー生活をするために一人暮らしを始めたのですが、自分の身の回りのことを自分でするのに精一杯でした。修学旅行も番組への出演があって行けなかったですし、ほかの学校行事にも出られないことが多かったんです。それでも何かと気にかけてくれた友達には、今でも感謝をしています。
──学生生活で思い出に残っていることや楽しかったことはありますか?
家長:楽しかったこと……なんだろう。高校3年間は本当にライバー活動と一人暮らし、あとは受験勉強で手一杯でした。勉強は楽しかったのですが、いわゆる「青春」っぽいことをした記憶はあんまりないんです。今になって、もったいないことをしたなとちょっと後悔しています(笑)。
土曜日に午前授業がある日ってたまにあるじゃないですか。その日にたまたま午後からの収録がなくなって、授業終わりに友達が「暇になったなら遊びに行こうよ」って誘ってくれたんです。ゲームセンターに行ったり、アイスをシェアしながら食べたりしたことが、今でも大切にしている楽しかった思い出です。みんなこんなことしてたんだって感激しました(笑)。
──多忙で遊びに出かける機会も少なかったんですね。昔から勉強は好きだったんですか?
家長:勉強を嫌いに思ったことはないのですが、全ての始まりは幼少期の読書体験にあると思っています。叔母が出版社で働いていた関係で、たくさんの本に囲まれて生活してきました。絵本もあったので、小さい頃からよく本は読んでいましたね。受験勉強とか学校の勉強にのめり込むようになったのは高校生くらいからかもしれません。
私立の高校に通っていたのですが、芸能活動をすることをよく思っていない先生もいたので、「勉強もしなさい」と文句を言われないように、常にクラス1位の成績を取ることを目標にして、本当に真剣に勉強をしていました。それがきっかけで勉強が好きになったのかもしれません(笑)。100点を取れるとすごく達成感があったので、100点を取るためにがんばってたというか……ゲーム感覚といえばゲーム感覚だったかもしれません。
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「Study with me」を始めて起こった変化
──視聴者と一緒に勉強をする配信企画「Study with me」はどのような経緯で始められたのでしょうか?
家長:経緯としては学業と配信を両立しなければいけないので、勉強する時間を配信に充てるしかないという、とんでもない発想から生まれました(笑)。
【 Study with me 】休日自習室 ☕長時間 いっしょに勉強&作業【 にじさんじ / 家長むぎ 】
──最初は実利から生まれたわけですね。そう考えるとかなり理にかなった企画ですね(笑)。
家長:もうとっても理にかなってましたね。かないまくり、勉強はかどりまくりです。
──家長さんの代名詞にもなるような人気企画になったと思うのですが、当時はこのようにファンの方に受け入れられることって想像できていましたか?
家長:できていなかったかも……。そう考えると、度胸ありますよね(笑)。だって、「Study with me」の配信中は、配信しているのに黙っている時間の方が長いわけですから。みんなよく見てくれたな〜。
でも自分にしかできない企画だと思っているので、始められてよかったです。当時はそんなことを考えられないくらい、とにかく勉強も配信もしなければいけないという気持ちでいっぱいでした。あと、「Study with me」を始めたことによってファン層が変わりましたね。
──その変化は家長さんの中でポジティブに捉えていらっしゃいますか?
家長:とてもポジティブに捉えています! これは単純に配信を観てくれる方が増えたからです。あまりたくさん配信している方ではないので、これ以上多くの方に観ていただくことは難しいかもしれないと思っていたのですが、「Study with me」がきっかけで新たにむぎを応援してくださる人も増えたので、正解だったんだなって。
実は最近、視聴者の過半数が女の子になっていて、しかも10代〜同年代の方の割合が多くなっているんです。これってにじさんじの女性ライバーではかなり珍しい傾向だと思っています。それこそ「Study with me」みたいな勉強にフォーカスを当てた配信をしているからか、ガラパゴス的な進化を遂げたのだと考えています。
──なるほど。「Study with me」を始めたことでさまざまな変化があったんですね。家長さんの学びのモチベーションとなっていることはなんなのでしょうか?
家長:憧れって言うとちょっとおこがましいですけど、こんなふうになりたいなとか、こういう姿ってカッコいいなという思いで配信を見てくれる方が増えたと感じているので、同世代の人に何かきっかけを与えられるような自分になりたいというモチベーションはあるかもしれません。あとはむぎが勉強している姿を見て勉強することに興味を持ってもらって、健全に大きくなってほしいという願いというか、責任感みたいなものもありますね。
こういったモチベーションは他者の存在を意識したものだと思います。これを踏まえて、自分自身を意識したときに何がモチベーションになっているかというと、なるべくたくさんのことを勉強して、この世界には自分がまだ知らないことがいかにあるかを認識することで、生涯学習につなげていきたい、という思いそのものですね。自分の知らない文化や表現、ルールを知っていくことでうっかりで人を傷つけてしまうことをできるだけ減らしたいんです。
──多くの人が自分のために勉強をする中で、家長さんは「人のために勉強をする」というモチベーションもお持ちなんですね。
家長:そうですね。勉強に対しての外的要因って基本的には「報酬」が多いじゃないですか? 例えばテストで100点を取ったらゲームを買ってもらえる、みたいな。ですが、むぎの場合は先ほどお話ししたように、外的要因がテイクだけでなくギブでもあるので、我ながらかなり変わっているなと感じますね。それもファンのみんなの存在があってのことなので、いつもありがとうって思っています!
「人のために勉強をする」家長むぎが学び続ける理由
──数々の資格を保有し、「Study with me」での勉強内容も多岐に渡っている家長さんですが、勉強するジャンルや内容はどのように決めているのでしょうか?
家長:基本的には取りたい資格の勉強をしています。漢字検定や世界遺産検定、ITパスポートなど自分の興味のあるものに加えて、大学で勉強している博物館学という学芸員課程に関連する勉強もしていますね。
最近は「Study with me」で百人一首についての勉強配信をしていたのですが、資格の取得につながらないようなジャンルでも、自分の感性が豊かでいられるようにという理由で勉強内容を決めることもあります。
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──それでは取りたい資格はどういった動機で決めることが多いのでしょうか?
家長:例えば色彩検定のUC(色のユニバーサルデザイン)級というものに合格したのですが、これは色覚多様性のある方のための色彩やデザインに関する資格です。これを知っていたら、配信のサムネイルを作るときに困る人が減るかもと思ったことがきっかけで勉強したので、人のためになることを考えて、取りたい資格を決めることもあるかもしれません。
もちろん自分の興味があるものも勉強しているのですが、それを勉強することで世界の見え方や人への接し方がプラスな方向で変わると感じるものに興味があるんです。
──これも先程お話にあった「人のために勉強をする」という部分につながるお話ですね。色彩検定以外にも、動画編集の勉強をされたことでMV制作もされていたりと、活躍の幅を広げられている家長さんですが、ほかにも学んだことがライバー活動に活きたと感じることはありますか?
家長:心理学っていうと大げさかもしれないのですが、心との向き合い方っていうのはずっと勉強していることですね。雑談配信などで同年代の方のお悩み相談をすることがあるのですが、それを勉強したことによって以前よりも適切な言葉をかけられるようになったのではないのかなと思います。
心に傷を負っている方に対して、かけてはいけない言葉や、とってはいけない態度って存在するんです。そういったものを知っているのと知らないのとで、いろいろと接し方も変わってくるものがあるなって。
【まじめ】重めの人生相談コーナー【にじさんじ/家長むぎ】
──お悩み相談をするうえで、ほかにも気を付けられていることはありますか?
家長:高校生の子のお悩みに答えることがあったときに、「それは時間が解決してくれることだよ」と言わないようにすることが、むぎが意識しなくてはならない誠実さだと改めて思うことがありました。悩んでいる人が「時間が解決してくれるよ」という他者からの言葉を受け入れられるのは、本人の問題を初めて時間が解決してくれたときからなので、まだ時間が解決してくれたことがない人へ、この言葉は容易に伝えてはいけないんですね。
「時間が解決してくれる」と言うとある意味では悩んでいる人を突き放したことになっちゃうので、実利的なアドバイスより情緒的なサポートというか、痛みを疑似的に体験したり、受け止めて寄り添うことが画面越しという距離感の自分にもできるケアなのかなと思いました。
そのお悩み相談配信の後、また別の配信で「ちょっとよくなりました」とか「状況が変わりました」っていう報告を聞いて、自分のことのようにうれしかったし安心したのを覚えています。
家長むぎから新入生へ「心と身体を大事にしてほしい。あとは……」
──学生生活において家長さんが大事だと思うことや大切だと思うマインドなどはありますか? 家長さんなりのアドバイスをお聞きしたいです!
家長:多くの人は「青春しておけ!」をみたいに言うのかな? むぎはそういう経験をあんまりしてこなかったので今困っているんですけど、とにかく心と身体を大切にしてほしいですね。あとはやっぱり勉強をしましょう!
特に中高生は勉強をした方がいいです。なぜなら、その時期にちゃんと勉強することによって、勉強をするという習慣が身に付くから。これがあるのとないのとでは大違いです。「何かを学びたいと思ったとき、実行に移すことができる」という力は、やがて机と向き合う勉強を超えて、人生をかけた探求へとつながります。個人的には、 中学高校の勉強は勉強するための基礎体力作りと考えていて、大学は研究の領域になるのでしっかりその準備をしておいてほしいですね。
大学の勉強はもっと楽しいです。自分の学びたいことを、その分野の研究者から直接体系的に学べるっていうのは、本当に素晴らしいことです。大学に行って何をすべきか。もちろんサークル活動などあると思うんだけど、まずは勉強です。勉強をするのです!
今、むぎがライバー活動というお仕事もしながら思うことは、絶対に学生のうちに勉強をしておいた方がいいということ。 後になって「あれをやっておけばよかった」と後悔をしても、仕事を始めるとその分を取り返すのはとても難しいです。学生時代の勉強は、可能な限り選択肢を広げておくっていう自分への一番の投資になると個人的には思っています。
──ありがとうございます。勉強することの意義について、家長さんだからこそ語れるお話でした。
家長:……やばい、めっちゃごめんなさい。とても熱心に勉強の魅力を語っていました……。
あと最後に1つお伝えしておきたいんですが、学生をやりながらVTuberになりたいっていう人も、この記事を読んでくれるかもしれません。そういう方は、ぜひVTuberをやってみてはいかがしょうか? むぎがデビューしたときに比べて、学生生活とライバー活動の両立をしやすい環境になってきていると感じるので、やってみたいと思った方は諦めずに、ぜひ応募してみてください! 勉強はもちろん大事なのですが、学生時代にこの刺激的なバーチャルの世界で過ごす日々は、かけがえのない最高の時間です。