やり切った1st LIVEファンの喜びが何よりもうれしかった
──ROF-MAO初の単独ライブ公演「New street, New world」からしばらく経ちましたが、改めてライブを振り返ってみていかがでしたか? 素直な気持ちと感想をお聞かせください。
音楽ディレクター・塩屋(以下、塩屋):私は今年の10月で入社して3年目になるんですが、入社後すぐに任されたプロジェクトがROF-MAOだったんです。それもあって、入社してから2年半近く携わってきた仕事の集大成ともいえるライブを大阪城ホールでできたことがかなりうれしかったですね。にじさんじの中でもすごく大きな規模で、素晴らしい演出も盛りだくさんのライブでした。ファンの皆さんからもすごくいい反応をいただけたので、携われたことが本当に幸せでした。
──現地で観客の皆さんの様子や、公演後のSNSでの感想などをご覧になっていかがでしたか?
塩屋:この数年はコロナ禍だったので、ライブでの声出しに慣れていない方も多いかもしれないと思いながら会場を見てたんです。しかし、実際に始まってみたら溢れんばかりの歓声で驚きました。本当に想像していた数十倍の歓声で、仕事をしないといけないのに思わず鳥肌が立って作業を止めてしまいそうになるくらい、本当にうれしかったです(笑)。
配信やアーカイブを見ながらコメントしてくださっている方も、現地で体感して終わった後に感想をコメントしてくださった方も、皆さん「よかった!」と喜んでいただけていました。そういったコメントを見て、我々もまた幸せになれたんです。
「ROF-MAO 大阪城ホール LIVEレポート【舞台裏公開】」より。
イベントディレクター・土橋(以下、土橋):いやー、関係各所にいろいろとご尽力いただいた中でこんなこと言うのは申し訳ないんですけど……心の底から楽しかったです!(笑) そのひと言が自分にとって全部です。もちろん大変なこともありましたが、ライバーとの練習も含めて準備から本番まで、そのどれもが本当に楽しかったという思い出しかない。
──やはりファンの皆さんの喜びを受けて、大変だったことも報われたという気持ちになったのでしょうか?
土橋:そうですね。準備段階では、やっぱり演出的な部分やテクニカル的な部分でROF-MAOのメンバーたちからの希望や、クリエイティブディレクターの考えを実現するうえでどうしても難しい部分があったりもして……。もちろんほかにも大変なことはいろいろありました。でも当日のROF-MAOやお客さんたちの反応で、もう全部の感情が「楽しい」に一気にシフトしましたね。
ライブクリエイティブディレクター・古藤(以下、古藤):私としては、今回のライブは初めて演出監督をさせていただいた大きなライブだったので、まずは無事に終わってよかったなという気持ちです。規模感としてもそうなんですが、一番心配してたのはこの場にいるほかの3人です(笑)。ROF-MAOの公演以外にも、同時期のChroNoiRの公演や、ほかのイベント仕込みとか……もう毎日のようにいろんな現場で一緒だったので、3人が倒れないかとにかく心配でしたね。無事で何よりでした(笑)。
剣持刀也
加賀美ハヤト
──全員揃って完走できたことへの喜びというわけですね(笑)。ご担当された演出面においてはいかがでしたか?
古藤:演出的に狙ったところ、特にROF-MAOの4人やここにいるメンバーと話したところで、お客さんに狙った反応をいただけたのはすごくうれしかったです。ただ、先の2人と違うのは、本番中は演出の兼ね合いでいろんなところを次から次に見ていたので、ライブや観客席の様子を楽しむ余裕がなかったのだけは悔しかったですね。あんまり覚えてないです(笑)。
土橋:すみません......。
古藤:いやいや(笑)。
──最後に小松さんからの振り返りをお聞かせください。
テクニカルディレクター・小松(以下、小松): ROF-MAOの練習段階から見ていたからこそ、始まる直前までは自分的に「これはこうした方がよかったかも……」と不安もあったんです。でも本番のあの瞬間に、そんな不安は消し飛んで、きちんと全部出し切れた、やり切れたなという思いになりました。
当日の僕は、基本的にステージの後ろの方で作業していたんですが、観客の皆さんの声による音圧で振動がすごくて、その喜びの熱量を感じられたイベントでした。公演が終わった後のSNSも見てたんですが、ROF-MAOがトレンドに入っていて、そこでもファンの熱量を感じましたね。ROF-MAOの皆さんも、終わった直後に興奮冷めやらぬ感じで「やり切ったー!」ってステージ裏で叫んでました。
塩屋:そうでしたね(笑)。
小松:もうその熱量のまま円陣組んだりして! そういった様子を見たら、やっぱり僕も「やり切った!」と改めて思えました。
不破湊
甲斐田晴
それぞれの目から見た「New street, New world」 ROF-MAOの熱量に応えたかった
──ROF-MAOの楽曲周りについてお聞かせください。今回のライブだからこそこだわったポイントや大変だったポイントはありますか?
塩屋:ROF-MAOの楽曲の特徴として、バンド演奏を背負うのがすごくカッコよくて、ライブが想像しやすそうな“バンド映え”する楽曲を多く作らせてもらっていました。最近は著名なバンドの方に楽曲提供いただくことが増えたりして、意図的に「絶対ライブで盛り上がるだろう!」っていう傾向にしていたんです。
特に今回は「New street, New world」というライブタイトルでしたので、セットリストの最後に「New street, New world」をやるのはおおよそ決まっていたからこそ、いかにカッコよく歌って締められるか、がベースのテーマでしたね。
「ROF-MAO - New street, New world (YouTube Edit)」
塩屋:そのうえで実は、4曲目の「フルカウント」をいかにカッコよく聞かせるか、バンドのライブって楽しいよねってファンの方々に感じてもらうか、というのを個人的なテーマにもしていました。バンドのリハとかセットリストを組む際に、1曲目から「ウィーアーポップスター」「一撃」「ラックハック」……っていう流れで、4曲目の「フルカウント」までをいかにカッコよくシームレスに盛り上がりをつなげていくか。
だからその最初のつながりは、各方面でいろんな仕掛けをしたりして、すごく大変だった(笑)。僕もバンドメンバーと「曲間は絶対こうした方がいい」みたいに話し合ったり、曲と曲の並びも「一撃」と「ラックハック」はBPMが近いのでシームレスにできるんじゃないか、という話をROF-MAOやバンドメンバーとかなり詰めた記憶があります。
「フルカウント」はROF-MAOのメンバーたちもかなり気に入ってくれている曲だし、大きな会場で歌うことを想像して作ったような、思い入れのある曲だったのでこだわれてよかったです。
古藤:そこのこだわりすごかったですよね(笑)。それに呼応して、ROF-MAOのこだわりもすごかった。
塩屋:そうそう! バンドのリハって、普通はバンドだけでやるのがほとんどなんですけど、そこにライバーたちが直接来て「ここはこうしたいんです!」って熱弁して。めちゃくちゃ熱量がありました。今回バンドの方々はどなたも本当に百戦錬磨の方々だったんですが、彼らの熱量が高かったこともあって話しやすい環境を作ってくださいました。
我々の熱量を上手いこと汲み取ってとても前向きに「それならこういうのもありますよね」っていろんなアイデア出してくださったりもしたんです。その熱量やこだわりがお客さんにも届いて、「『フルカウント』何回聴いてもいいよね」って言ってくださっているところも見られたので、本当によかったなって思います。
「ROF-MAO 1st LIVE - New street, New world」セットリスト
──続きまして、イベント作りについてお聞かせください。にじさんじではたくさんのライブやイベントがありますが、普段どのようにしてイベントは作られていくのでしょうか? また今回のROF-MAO 1st LIVEについて、イベント作りの中でも一番こだわった部分、大変だった部分があれば教えてください。
土橋:流れに関しては大雑把になるんですが、ライバーとキックオフミーティングをして、方向性ややりたいことなどを話します。「イベントのディレクターとしては、こう考えています、ライバーさんはどうでしょう」という感じですね。そうやってすり合せをしていって、準備や練習・リハを重ねて、最終的には公演として皆さんにお届けするというのが、大まかな流れです。
そして今回の「New street, New world」では、メンバーの熱量がとにかく高かったので、それに対してこちらも「それはできません」「これは難しいです」「イベントとしてはこう考えてるからやめましょう」とはできるだけ返したくありませんでした。だから、ROF-MAOの要望に対してどれだけ実現できるか、という部分のすり合わせに時間をかけて尽力しましたね。そこはかなり大変なところだったかもしれません。
それこそ先ほどの「バンドのリハにライバーたちが直接やって来る」という話。正直これまでは一度もそんなことなかったんです。でも今回は、主に加賀美さんから「音のつなぎとかめちゃくちゃこだわりたいです」とお話を伺ったので、「それならとことんまで付き合ってもらうよ!」ということで、4人には普通のイベントではありえないくらい多い事前稼働で、たくさん協力をしてもらいました。
企画からバンドの音作りから、とにかくどの段階でもROF-MAOメンバーといろんな場面で向き合って、妥協せずにお互いのこだわりをすり合わせしたというところは、今回のライブだからこそのポイントですね。
──とすると、今回のライブではそもそものイベントコンセプトや方針などを話す段階から、ROF-MAOの4人と意見交換をしていくことが多かったのでしょうか?
土橋:そうですね。通常は、方針を決めてから出演者に話しますが、この4人だったらこちらが相談したら絶対返してくれるという信頼があったので、なるべく最初の早い段階から入ってもらいました。
例えばROF-MAOは「ろふまお塾」というバラエティ番組をやっているので、そのバラエティ感を大事にして前面に出していくのか、それともカッコいい部分を前面に押し出すのか、みたいなところからすり合わせたりもしましたね。まずは社内ですり合わせた後に、その提案や考えをROF-MAOに話して、そこからメンバーの意見や要望を聞きながら整えて、というのを繰り返しました。
「レジェンドスタントマンが教える!カッコいいやられ方選手権!」より。
土橋:その中で、個人的に一番印象に残っているのが、塩屋さんも話してた「フルカウント」をどれだけ格好良く見せるかですね。ライブ配信(ネットチケットによるライブ視聴)では、その「フルカウント」がいわゆる無料チラ見せパートの最後だったんです。
無料で見ている人からしたら「フルカウント」がトリだったので、あまりにもカッコよく締めてしまうと、無料で見てくれてるお客さんがそこで満足して見るのをやめちゃうんじゃないか、って思ったんですよ。
ROF-MAOの皆さんに「ちょっと豪華にやりすぎかもしれないですね」って話したら、加賀美さんから「一旦やりすぎてから考えたらいいじゃないですか! なんですぐケツ決めるんですか?」というご意見をいただきまして......。
塩屋:カッコいい! 確かに加賀美さんらしい!
土橋:その瞬間から、僕の中で一気にマインドが変わったんですよ。もう全力で詰め込んで、何かあったらその時に初めて「ああ、やっちゃった!」って思おうって。その言葉のおかげで最後まで全力で走り抜けられたんです。
だからそのときの加賀美さんの言葉が本当に印象的でしたね。そんな大事なことをライバーに教えられるっていう不甲斐ない話なんですけど、でもその通りだなって思いました。なんなら今でもその言葉を大事にしてるくらい、自分には響きましたね。
古藤:あのときの現場、熱かったですよね(笑)。
土橋:それくらい本人が大事にしている、確たる部分なんだろうなって思います。おかげで自分の考え方を変えられたので、本当によかったなって思ってます。いつの間にか自分は、勝手に小さくまとまって、勝手にケツ決めてたなって気付かされましたね。これは本人にも言いました(笑)。「あれのおかげで僕は今後もやっていけそうです」って。
塩屋:加賀美さんは恩人ですね(笑)。
「ROF-MAO – フルカウント (#ROFMAO_1stライブ Special Edit Ver.)」
──お次は演出、映像周りについてお聞かせください。演出監督として特にこだわったところ、また今回のライブがほかのイベントやライブと比べて新しく挑戦したところはありますか?
古藤:今回のライブの演出コンセプトは明確にあって、それは「上下の動きを取り入れる」でした。今までバーチャルのライブでは、基本的に上下の動きがあんまりないんですよ。特に今回は大阪城ホールという大きな会場だったので、上下の演出を取り入れたライブをやりたかったんです。
中でも特にこだわったのがステージ上の2階建て部分ですね。それもただ単純にステージ上に2階部分があるだけではなく、3D上のステージとリアルのステージの施工を、センチ単位までほとんど同じスケールで作ったんです。これは内製で、社内スタッフがめちゃくちゃがんばって作ってくれました。
あと上下の演出で言うと、最初はすごく反対されたんですけど「前向きフェニックス」で加賀美さんを吊るしました(笑)。やっぱり映像演出ではなく、実際に人を吊るすというのは、安全面を考えるとどうしても大掛かりな施工になってしまうので、監督チームやいろんなところから反対されたんです。しかし、自分のこだわりで「これは生でちゃんとやらないと、実際に吊られてるかどうかはお客さんに伝わってしまうから!」っていう話をして加賀美さんを吊らせてもらいました(笑)。
小松:いやー、吊りましたね(笑)。
古藤:加賀美さんも最初は相当乗り気ではなかったんですけど、演出面のこだわりとか話して説得したら折れてくれましたね。たぶん「たった1分半程度の尺のためにここまで大掛かりなことやる!?」っていう疑問があったのかなって思います(笑)。
塩屋:でもこの間加賀美さんにお会いしましたけど、「『前向きフェニックス』歌っててめっちゃ気持ちよかったです!」って言ってました(笑)。
小松:おぉ、よかったですね!(笑)
「ROF-MAO 1st LIVE - New street, New world」より。
古藤:それ以外にも、2階に上がるための階段があったんですけど、階段に上がるための施工をバーチャルでもリアルでもちゃんと成立するように作りました。一度捌けてからもう一度上がってくる……みたいなところを感じられるようにしてましたね。
ほかにも電飾周り。どれくらい気付いてくれた方がいらっしゃるかわからないんですが、3D上の電飾とリアルの電飾がサイドまでコの字型にあったんですけど、それがバーチャルのところとリアルのところの境目がすごくわかりにくいように上手く設計してあるんです。
テクニカル的な話になってしまうんですけど、そこに統一感、連続感を持たせようとしても、どうしてもライトアップにディレイ(遅延)が発生してしまうんです。それを電飾チームがすごくきれいに合わせてくれて、パッと見ではどこまでがバーチャルでどこからがリアルなのかってわからないようなステージになりました。これはにじさんじの中では初の試みでしたね。
「ROF-MAO 1st LIVE - New street, New world」より。
──それでは最後に、ここまでの話も大きく関わってくると思いますが、3Dテクニカルの話をお聞かせください。ROF-MAOメンバーのパフォーマンスやライブ演出を表現する中で、特に印象的だったことを教えてください。
小松:今お話にもあった通り、今回のライブではさまざまな演出がありまして。それを演出が多いからといって「次の演出準備があるので」って止めるわけにもいかない。だから2時間のライブ中、絶対に止めることなく、次の演出、次の演出という流れをシームレスに作りながらやっていくということが本当に大変でした。
例えば先ほども話題に上がった「前向きフェニックス」に関しては、加賀美さんが本当にワイヤーで吊られるので、演出の合間にその吊るための道具を本人に付けないといけない。だからご本人にどちらを向いた状態でいてほしいとか、こんなふうに足を伸ばしてほしいとか、そういった細かい指示をすべて完璧に呼吸を合わせて準備しながら曲を立ち上げ、かつ歌いながら吊り上げに移らないといけないんです。
加えてROF-MAOは力強くてパワフルで、スピード感もある男性ユニットメンバーだったので、そういったつなぎの部分などを本番直前までメンバーの皆さんともすり合せをして、「ここに行くときは、そこからこんなふうに入って、このあたりを通って行きましょう!」といったパフォーマンスに直接関係のない動きなども、始まる15~20分くらい前まで話し合いました。「この方角を向きながら歩いてもらうとカッコよく見えるので!」とか(笑)。本当に大変だったけど、やりがいはありました。
あとは事前準備で大変だったのが、神輿ですね。ライバーさん本人を神輿に乗せて、それをほかのライバーさんが担いで練り歩くという演出なんですが、専用の神輿を社内で作りまして、それを現地に持ち込んで乗って担いでもらいました。
古藤:社内にいる超優秀な美術さんが、神輿も作ってくれました(笑)。
小松:ですね。その方と一緒に神輿の材料を買いに行ったりとかして……(笑)。もう本当に1から制作しました。
「ROF-MAO 1st LIVE - New street, New world」より。
──それだけ新しい試みや、今回のライブならではの試みが多い中、無事に大成功を収めることができたのは、関係者全員が全力で臨んだからこそですね!
土橋:そうですね!
古藤:でもちょっと危うかったときありましたよね(笑)。本番1時間前にシステム全部が……。
小松:ありましたね(笑)。本当に本番が始まる1時間くらい前にシステムエラーがあって、改修をしつつ準備をするっていう……。本当に大変でした。なんとかなって本当によかったです。
古藤:その本番1時間前のクラッシュもそうですし、実は電飾周りでLEDの不具合もあったりして……。でもここのスタッフをはじめ、全スタッフが諦めずに復旧作業してくれて、無事に終えられました。
土橋:それこそ裏方のスタッフとか制作のスタッフとか、全員が死に物狂いで作り上げてくれた、いろんな想いが詰められていたから、それがお互いに伝わって無事終えられたライブだったんじゃないかなって思います。
取材・文:株式会社KADOKAWA 大竹卓 監修:ANYCOLOR MAGAZINE編集部
ROF-MAO 1st LIVE New street, New world