「お小遣いもらえるなら、まあいいか」バイト感覚で始めて早7年
――皆さんがデビューして今年7周年を迎えました。デビュー初期の頃は自分がここまで長く活動することは想像できていましたか?
樋口楓(以下、樋口):私たち最初はにじさんじアプリのテスターとしてデビューしていて、半年でやめるつもりだったので7年も続くとは思ってなかったですね。長くて2年ぐらいかなと思ってました。
月ノ美兎(以下、月ノ):わたくしは3ヶ月ぐらいでやめるかなって思ってましたよ。
静凛(以下、静):もっと短かった(笑)。
月ノ:バイトとかこれまで大体3ヶ月で辞めてるんで、わたくしはそうなるんじゃないかなって。
静:アプリのテスターだったから、続く・続かないは会社のさじ加減だったと思いますね。でもにじさんじアプリについては、感情を表現しながら手軽に配信できる機能ってすごいなと感じたので、もしテスターとしての契約が終わってもアプリを使えないかなと思ってました。だから当時、その後もなんらかの活動を続けるつもりだったのかもしれないです。
樋口:そもそもバイト感覚だったんで、それで稼いで生活しようとも考えてなかったですね。「お小遣いもらえるなら、まあいいか」って感じです。
静:うん。
月ノ:当時のスタッフさんが「みんなを配信で稼げるようにする!」って言ってましたけど、全然信じてなかった(笑)。
樋口・静:(笑)
月ノ:1期生は確かみんな、面接で「配信で食べていく気ありますか」みたいなこと聞かれたんですよ。んで、(渋谷)ハジメさん以外全員「ない」って言ったらしい。
樋口:(爆笑)
――日常生活に加えてテスターとしての活動もあってご苦労されたんじゃないかと思いますが、その点はいかがでしたか?
樋口:私はそんなに、ですね。2018年頃はちゃんと学校に通ってたので、そこまで活動中心の生活にはならないだろうと思ってました。「にじさんじが終わるときに私も活動を終えたい」っていう思いは、昔も今も変わってないんですけど、学校と家庭の都合で当初は半年しか活動の猶予がなかったんです。でも、あるとき美兎ちゃんがすごくバズってにじさんじを引っ張っていってくれたおかげで、自分の中で「にじさんじの成長と共に、やっぱまだまだ活動続けたいな」みたいな気持ちになっていきました。美兎ちゃんどうやった? 最初にバズったとき。
月ノ:うれしかったね。自分が「バズったな」って最初に思ったのはニコニコ動画にわたくしの動画が無断転載されて、ランキングか何かで1位になってたときだったかな。無断転載だけどそのときはめっちゃうれしかった。当時にじさんじに入ってから一番テンション上がったかもしれない。
――最初は皆さんがおっしゃってた通り、にじさんじアプリのテスターという立ち位置でデビューされました。その後ANYCOLOR(当時の社名はいちから)はタレント事業が主になり、皆さんもテスターではなくライバーとして活動することになりましたが、そのことについて混乱はなかったですか。
静:タレント業に切り換えたのは英断だったと思いますよ。会社をもっと大きくするために、早めに見切りを付けて舵を切ったのはすごいことだと思います。
樋口:なんかにじさんじアプリをApp Storeで発表できなかったことも理由やったって聞いた。
静:そうだったんだ。
月ノ:そういえばそんなことあったね。
樋口:そう。App Storeにアップできなくて、世間的に広められないから(方向性を)切り換えたっていう。
――もし世界線が違ったら、今とはまったく違う形で「にじさんじ」という単語を目にしていたかもしれないですね。当時にじさんじアプリが目指していたようなVTuberアプリも今は実際にありますから。
静:そうですね。そっちの路線に行ってた可能性もあるけど、今の方向に切り換えて正解だったんじゃないかと私は思いますよ。
ライバー活動の転機は? 変わったことと変わらないこと
――この7年間で、皆さんの活動のあり方や考え方などで変わった部分はあるんでしょうか? もし転機になった出来事など覚えていらっしゃったらお伺いしたいです。
樋口:うーん、特には変わってないんですけど、学校を休学する形でずっと高校2年生でいるって決めたから、「自分の活動のせいで家族に迷惑をかけないように生きよう」みたいなマインドにはなりました。
静:なるほどね。
樋口:ライバーになってなかったら、もともと家業を継ぐ予定だったんですよ。そのための環境を前もって親が整えてくれていたんですが、そのレールから外れることになったので、より「迷惑をかけてはいけない」と考えるようになったかな。問題を起こしたら家族に迷惑がかかるとか、自分が稼げなくなったら頭を下げて家に帰らなきゃいけないとか。自立しなきゃいけない、っていう意識がより強くなった気がします。
静:偉い!
――ご家族の支えがあったからこそ、活動の形を少し考える部分もあったっていうことですかね。
樋口:そうですね。美兎ちゃんは何かあった?
月ノ:配信活動については配信から動画投稿をメインにしたこととか細かくいろいろあるけど、ライブとかイベントに関して言うと、ほかの人のライブを見て自分もがんばらなきゃなってすごく思ったな。楓ちゃんの「KANA-DERO」(2019年開催のKaede Higuchi 1st Live “KANA-DERO”)とか、にじさんじ以外だとヒメヒナさんのライブとか。確か両国のライブ(Virtual to LIVE in 両国国技館 2019)が終わった頃だったかな? 演出もすごく凝ってて「がんばればここまでできるのか!」って思わされたし、まだまだできることがありそうだなあって思った。
樋口:確かにあの頃、美兎ちゃんが「思い出に残ってるライブって何?」ってめっちゃ聞いてきた覚えある(笑)。
静:(笑)
――静さんはいかがですか?
静:うーん、活動期間が長いからこそ何か変化あるかなって思って振り返ってみましたけど、多分この7年間で何も変わってないですね。最初の放送からほぼ変わってないライバーの3本指に入るんじゃないかなってぐらい。
樋口:ほぼ変わってないですよね、凛先輩は。
静:いろいろチャレンジはしてみてるんだけどね。でも、すぐやめちゃう。時々「変わろう」っていう気持ちになるんですけど、形状記憶合金みたいにまた戻っちゃうんで。でも配信において一番重きを置いてるのはリスナーさんとの対話なので、誰も配信を見てくれなかったら変わっちゃう部分があると思うんです。だからリスナーさんのおかげで変わらないでいられるっていうことかもしれないですね。
月ノ美兎「めっちゃうれしかった」、後輩と接するときに思うこと
――皆さんは1期生ということもあり、後輩のライバーさんから尊敬されたり頼られたりする場面をしばしば目にしますが、後輩との関わりで意識していることはありますか?
月ノ:わたくしは後輩にはナメられているぐらいのほうがコミュニケーションがうまくいくと思っていて。ただでさえ1期生でなんだかアレなポジションにいますし。さすがにファーストインプレッションからめちゃくちゃナメきってる、みたいな人は会ったことないけど、誰かに1回やってみてほしい。どういう気持ちになるんだろう?
樋口:私はキレると思う。
月ノ:(笑)。わたくしって実際接してみたらけっこうナメられそうな感じなんで、一度話してみたほうがいいんじゃないのかって思います。だから、にじGTAとかすごいやりやすかったです。もう1期生とか後輩とか関係なく、みんなGTAでのキャラクターという薄い皮をかぶってるみたいな感じだったから。GTAで(叢雲)カゲツくんにキャバクラの営業電話をかけたんですよ。そのとき忙しかったみたいで「今遊びじゃねえんだぞ、ふざけんな」って切られたんですけど、なんだかめっちゃうれしかったです。
樋口・静:(爆笑)
月ノ:多分カゲツくんとの初めての会話だったんですけど、めっちゃうれしいなって思いました。それぐらいで全然いいもん。
――樋口さんは後輩との関わりで意識していることはありますか?
樋口:自分に求められた振る舞いをしています。
静:へー?
樋口:自分が悪いのかもしれないんですけど、なんか怖いキャラになっちゃったんで(笑)。後輩たちもその印象で接してくるので、私も配信上ではその対応で返してるっていう感じです。普段は後輩にも敬語なので、後輩というより1人の配信者さん・にじさんじライバーさんとして関わってるイメージです。配信上では求められたことをしていますけど、基本的にはお互い尊敬の心を持って接するようにしていて。もし何かナメたような口をきいてる人には……ぐらいですね。
静:はははは。
樋口:(笑)。でも実際にはそんなことしてくる人はいないですよ! 遅刻しても謝ってくれるし、締め切り日が過ぎてもきちんと連絡してくれるし。私もそこら辺は間違えちゃうことがあるので、1人の人間として接していますね。凛先輩は?
静:私が一番後輩と関わらないからね(笑)。ゲームの趣味が同じ人としか関わらないし、凸待ちしてるところに気が向いたら遊びに行くとか、ぐらい。だから後輩としゃべる機会がある場合は、「1期生が来た」って身構えられちゃうとは思うけど、話しやすい雰囲気を醸し出すようにしてます。
樋口:凛先輩こそ、あんまり先輩後輩関係なく1人の人間として接してますよね。どの世代のライバーさんにも「しずりんって呼んで」って言いますし、にじさんじ以外の人にも言うから。私以上にたぶんライバーさんのことを“個人”として見てる気がします。でも同期は多分特別だから違うとは思うけどね。
静:えー?(笑)。でも私、あんまり敬語を使わないかもしれない。配信では敬語を使うことが多いけど、配信以外ではフランクな感じでしゃべっちゃうから。楓さんと逆だね。
樋口:そっちの方があたしも話しやすいかもしれないです。
――確かに「先輩だぞ」ってオーラを出すよりは、「気軽に話しかけてね」っていう方が後輩の皆さんもきっと話しやすいですよね。
静:おそらく! ちょっと後輩の立場になったことがないので実際どうなのかわからないのですが。
月ノ:さらにいうと、1期生はVTuberそのものの数が少ないときに活動を始めたから、にじさんじというよりは“バーチャルYouTuberっていう箱”に入ったみたいな感覚が強い気がするので、外部とにじさんじ箱内とで対応の差があんまりないなって思うね。
樋口:確かにそうかも。にじさんじに入ったっていう感覚はなくて、VTuberになったっていう感じかもね。でも当時は3Dで活動するVTuberが多い中、私らは2Dだから「VTuber?」みたいな感覚もあった。
――デビュー間もないライバーさんたちは「あのにじさんじに自分がいるなんて!」っておっしゃる方が多いなと思ってまして。皆さんはにじさんじを最初期から見つめてきた立場なので、そういう感覚が薄いのかなと思いました。
樋口:最初は怪し過ぎたから(笑)。今の後輩たちは「ここで人生成功させるぞ」ぐらいの気持ちで来てるかもしれないけど、うちらは本当にアルバイト感覚だったから、怪しいことをさせられない限りは「まあいっか」ぐらいでした。
外で“にじさんじ”を見たときどう思う?
――にじさんじプロジェクトとともに7年間歩んできた皆さんですが、ご自身の中でにじさんじというグループはどういう存在になっていますか?
静:なんかさ、外出したりすると「にじさんじ」っていう単語を耳にしたり目にしたりするんだよね。
月ノ:うんうん。
樋口:確かにそう思う。
静:この間出かけたときも「にじさんじ」っていう単語が聞こえてきて。もちろん一般の方もみんな知ってるよってことじゃないと思うけど、インターネットの文化に詳しい人には、知られていて当然的な存在になってるんじゃないかなって、ちょっと思ってる。
月ノ:自分がその渦中にいると流行ってんのか流行ってないのかわかりづらいとこがあって。例えばXみたいなSNSって、もう自分がよく見る話題ばっかり流れてくるみたいな感じになってるから、にじさんじの話題をいっぱい目にしますよね。わたくしは毎日「にじさんじ」って単語を目にしてるけど、それはわたくしのタイムラインがそうやって操作されてるからだろうなって思う。けど実は思ったより人気だなって感じてます。
樋口:なんかアニメとかマンガのような筋書きのあるコンテンツより、ファンの人との距離が近いから親しみやすいんだろうなって思うな。YouTuberさんが人気になるのと似てるのかもしれないね。
静:うんうん。
月ノ:そうだね。あと、いい意味で「自分でもできるかも?」っていう部分で夢を与えられる部分は絶対あるんだろうなって思ってるよ。現にウヅコウ(卯月コウ)とか、わたくしを見て「俺でもできるかも」って思ってにじさんじに入ってきてたし。
静:(笑)
――1期生として7年間やってきたからこそ、にじさんじという環境が馴染み過ぎて、盛り上がっている実感があまりない、というようなことですか?
静:でも私は実感があるほうの人、だと思う。
月ノ:外出先で広告とかが目に入って、ファンの人たちがその写真を撮ってるのを見ながら「人気だなあ」って思うけど、若干どこか他人事だと思っているところはありますよね。
樋口:確かにちょっと他人事かも。自分のことだったら「お!すげえ!」って思うけど、他のにじさんじライバーさんのを見てると、「おお……すげえ」っていう感覚。ちょっと違うんだよね。
静:ちょっと違うんだ(笑)。
月ノ:なんかもう、“現象”だと思ってるから。
静:でも私は(広告の)写真撮るよ。
月ノ:わたくしも一応撮る。あとで本人たちに見せようかなって。でも個人的にはほかの事務所の広告を外で見たときと全く同じ感覚だと思います。
静:ああ、なるほどね。他の箱の広告見たときと同じ感覚ってことか。
月ノ:うん。それ(ほかの事務所の広告)も一応写真撮るし。だからやっぱりわたくしはにじさんじのライバーだから、みたいな意識はちょっと低いのかもしれないですね。にじさんじでもそうじゃなくても、そもそもみんな同じく“VTuber”だと思ってるから。
これからのにじさんじはどうなる? 1期生3人が期待することを聞いた
――ライバーである皆さんの視点で、今後にじさんじはどのように成長していくと思われますか?
月ノ:これ以上成長するとしたら、何の要素があるんでしょうね?
静:でもやっぱり技術発展じゃないの? 今どんどん新しい技術が出てくるから、まだまだ止まらないんじゃないかな。
月ノ:何か面白いことできたらいいな。前にNornisが新宿で路上ライブをやってたし、ああいうふうにライブとかVTuberを見ることに対してもっと敷居が低くなったら、本当ににじさんじが街に溢れる可能性もあるかも。
樋口:どう成長していくか、か……。うーん、なんかどんなコンテンツでも10年続いたらすごいと思っていて。いつかどこかでひと区切りつけるときは来そう。今のこの勢いがもし止まっちゃったときに、ファンのみんながついてきてくれるような熱量を我々が持ち続けられるかが課題だと思ってるので、ライバーさん個々の力もそうですけど、そのとき会社とライバーがいかに向き合えるか試されるときが来ると思います。
過去にもそういう時期があったので、いつかまた何かあるんじゃないかなと思いますね。「いちから」から「ANYCOLOR」に改名するタイミングでも、ライバーさんの意見を聞いてくれましたし、またそうやって対話するときが来るんじゃないかなっていうのは個人的に予想してます。
――何年か前にはANYCOLORが上場する、という大きな区切りもありましたからね。
樋口:そうですね。昔のインタビューで田角さんが「にじさんじの次のことも考えながら行動したい」みたいなことを話してらっしゃったので、うちらもそうやって先のことを考えながら、ライバー活動の幅を広げていきたいなと思っています。
月ノ:なんかゲームとかで、3人組の敵を全員一緒に倒さないと死なない、みたいなシステムあるじゃないですか。“箱”ってああいうシステムに似てる部分がある気がしてて。にじさんじがちょっと停滞するときはこれまでもあったけど、新人や今まで知名度がなかった人が何かのきっかけでバズったりとかしていろんな人たちに認知されて、っていうのを繰り返していて。だからすぐにはなくならないと思うんですけど、外から人が来なくなって身内だけが面白いことを繰り返すようになったら、緩やかに終わっていくんだろうなって。
――なるほど。会社としては新しい技術を開発したり、VTAで新しい才能を育てたり、いろんな試みを続けてると思うんですが、皆さんが今後期待していることって何かありますでしょうか?
月ノ:技術的な進化はこれからももっと見られたらいいなって思います。去年のライブでトロッコが出たりとかありましたよね。ああいうのはうれしいなって思いますね。
静:さんばかのライブではブランコも出たんだっけ。
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月ノ:この間しばちゃん(黒井しば)が3Dになって話題になりましたし、あんなふうにわたくしたちにはどうにもならないことを実現してくれるのがうれしいです。
静:モチベーションが上がるような革新的なことがあるといいよね。
樋口:私はライバーさんのモチベーションを保てるような何かがほしいなと思う。3Dお披露目とか共通衣装を着てライブすることが1つのゴールになってる人もいて、それが達成されたら燃え尽きちゃう……みたいなこともあると思うので、ライバーさんがそこよりも先を見て、新しく目指せる何かを作って欲しいな、っていう気持ちはあります。
――ご意見大変ありがたいです! それでは最後となりますが、8年目の活動も引き続き応援していただけるファンの皆さんに向けて、今後の抱負やメッセージをお願いします。
月ノ:何かを8年も続けられているのって人生で初めてなので、本当に良い趣味に出会えたな~と思います。小学校でも6年ですよ! それ以上の付き合いになってるライバーやスタッフやリスナーって、最早時間だけで言ったら幼なじみかなんかと同等じゃないですか!? すごすぎ!! これからも、わたくしたちが思ってるよりも人気なにじさんじを、よろしくお願いします!
樋口:VTuber業界の情勢が大きく変わる中で、初期の頃から応援して下さっているファンの皆さんも、にじさんじに新しい風を吹かせてくれるライバーのファンの皆さんも、どちらかの存在が欠けてしまっていたら今のにじさんじは無かったと思っています。
ライバーやANYCOLORがどんどん成長していく過程で、戸惑われる方もいらっしゃると思いますが、道なき道を模索し続けて我々は日々大きくなってきました。
8年目でも失敗することもあると思いますが、そこも丸めて愛していただけるようにがんばります。応援よろしくお願いします!
静:インタビュー見てくださってありがとうございました。私自身は派手さやアイドル性の欠片も無いのですが、「帰って来るたび、前と変わらないで安心する」場所になり続けられるように、これからも活動していけたらと思います。いい意味での停滞です!! いつも本当にありがとうございます、感謝♡「にじさんじ」はまだまだ広がり続ける未来に向けて、さまざまに進化&繁栄していきますので、皆さんの温かい応援よろしくお願いしますね!