にじさんじのシナリオを支える“文字のなんでも屋”
――まず初めに、日頃担当されているお仕事の内容について教えていただけますか?
シナリオ進行管理 S:シナリオチームの主な業務はボイス商品の台本を用意することになります。特ににじさんじオフィシャルストアで毎月発売している「コンセプトボイス」シリーズの制作は、チーム全体の60%ぐらいの工数を占めていますね。
ここ数年で少しずつボイス制作以外の業務の割合も増えてきて、小説・ショートストーリーの執筆といったお話作りをすることもあれば、グッズのSNS告知に使用するテキスト作成やROF-MAL、咎猫といったキャラクター設定も担当するようになってきています。
基本的にはご依頼いただいたものはなんでもやるスタンスのチームなので、他部署の仕事でもできるだけ対応しています。その中の1つが伏見ガクエストのシナリオ作成ということになりますね。
シナリオディレクター O:文字周りのなんでも屋さんですね!
咎猫 剣持のオトモ
咎猫 伏見のオトモ
――テキスト回りの業務を幅広くご担当されているんですね。シナリオチームのメンバーは現在何人いるんでしょうか?
シナリオ進行管理 S:今のシナリオチームは計6人ですね。私のような進行管理をメインで担当しているのが2人で、Oさんのようなクリエイティブをメインで担当しているのが4人になります。
みんなバックボーンがバラバラで、ゲーム会社のシナリオライターをしていた人もいれば、ボイスプランナーからシナリオディレクターに転身してきた人、小説が好きで自分で創作活動をしていた人もいます。基本的にはみんな何かしらの形でシナリオ制作に携わってはきたのですが、得意分野が全然違うので、社内のさまざまな案件を受ける体制としてはバランスが取れているなと思っていますね!
シナリオチームが携わったコンセプトボイスシリーズ「絶対寝かせないASMRボイス」。
――本当にいろんな経歴の方々がいらっしゃるんですね。それではおふたりがシナリオ進行管理・シナリオディレクターとして、ANYCOLORに入社した理由はなんでしたか?
シナリオ進行管理 S:元々はゲーム会社の社員やフリーランスの立場で、シナリオライティングやディレクションを担当していたんです。いろいろなお仕事をする中で長く携わっていたのが、アイドルやアーティストのゲームやアプリをつくる仕事でした。
ANYCOLORに入社する直前はそれまでと毛色が異なる重めのテーマや展開を扱う作品を担当していたのですが、とても勉強になる反面、ハッピーエンドを書きたい気持ちが次第に強くなってきて……。
そんな中、気分転換のためににじさんじの配信を見ていたときにふと「ANYCOLORってシナリオ制作の採用募集をしているのかな?」と思い立ったんです。採用ページを見てみたら、ちょうど募集が出ていました。そこで、ファンの方も自分自身も明るく前向きな気持ちになれるシナリオ制作の仕事に戻りたいと思い、ANYCOLORに応募しました。
シナリオディレクター O:私はSさんのようにいいエピソードがあるわけではないのでうまく話せる自信がないのですが……なんせ物書きなので本当に口下手でして(笑)。
入社した理由としては、いろいろなことに挑戦できそう、という点が大きかったですね。ANYCOLORはグッズをはじめ、イベントやバラエティ番組など本当に多岐にわたるコンテンツを制作していますよね。私はもともと放送作家をやっていて、テレビでタレントさんや芸人さんと一緒に仕事していたのですが、映像メディアで培った、企画力や構成力も活かせそうだなと思い、応募しました。
それに加えて、ANYCOLORは間違いなく今一番ホットな会社の1つだろうと。VTuberという最先端の文化や流行を追いながら、自分の技術を伸ばしたり可能性を広げたりできるのも魅力だと感じていましたね。
ライバーとともに紡いでいくシナリオ
――一般的なシナリオライターと比べて、ANYCOLORのシナリオライターならではの難しさや面白さ、魅力はどんなところですか?
シナリオ進行管理 S:ゲームやアニメなどのシナリオ制作と異なるところは、シナリオの登場人物がライバーさんという日々活動されている方々である、というところですね。ですから、好き勝手自由に設定を作って創作することはできません。シナリオライターはライバーさんのキャラクターを借りて、シナリオを作っていくんです。
私は以前実在する人物をモチーフにしたゲーム案件を担当していたこともあって、ライバーさんたちの考えていることやファンの方への思い、生き様といった部分をどうシナリオに落とし込んでいくのか、ということにやりがいを感じますね。ここがANYCOLORのシナリオ制作の特徴だと思います。
シナリオディレクター O:アニメやゲームのキャラクターが物語の中で生きているのに対してライバーさんは日々配信等を通じて活動されているため、実在するライバーさんたちの言葉や雰囲気を大切にしながら、物語としての“もうひとつの顔”を描いています。制作において、ライバーさんと直接話し合いができる、意見を交えることができるのはとてもありがたいですね。ライバーさんからアイデアやフィードバックをもらい、シナリオに落とし込んだうえで、どれだけ突き詰めて完成させるか、というところが仕事をしていて一番おもしろいところです。
シナリオ進行管理 S:もう1つ感じるのはANYCOLORのシナリオチームはただのクリエイティブチームではなく、会社全体の方針や理念と連動しながら、物作りに取り組める環境にあるということですね。日々目まぐるしく業界が変わっていく中で、シナリオを作る側も環境への理解と対応力が必要になります。会社のビジョンを理解したディレクターやライターが社内にいるからこそ実現できるスピード感や柔軟さ、それらを提供することが私たちのチームが存在する意味だと感じています。
二人三脚で挑んだ伏見ガクエストのシナリオ制作
――伏見さんのソロイベント・伏見ガクエスト 〜伝説の調理器具(ピース)を求めて〜にはどのように関わられていますか?
シナリオ進行管理 S:シナリオチームが関わった作業としては、にじさんじ公式YouTubeチャンネルで配信されていた序章動画シリーズの構成とイベント本編の物語パートの作成です。ほかにもイベントチームに演出や舞台美術のイメージを共有していただいて、本編の設定とズレが生じていないか、という確認作業もしていましたね。
【伏見ガクソロイベント】#伏見ガクエスト 序章動画「Quest1 仲間集め」
シナリオ進行管理 S:クリエイティブに関してはOさんにお任せしていたので、私は進行管理としてイベントプランナーさんとの間に入って、要件を整理したり、スケジュール管理をしたりとOさんが作業に集中しやすい環境を整えることに専念していました。Oさんはいくつもの仕事を並行して担当されていますし、イベント台本も日常的に制作しているものではないので、スケジュールをちゃんと組んでおきたかったんです。
シナリオディレクター O:Sさんに進行管理していただいたので、本当に進めやすかったです。
シナリオ進行管理 S:もう1つ私の担当としては、Oさんのサポートですね。Oさんに作っていただいたプロットが、つながりとして自然なものになっているか、イベントプランナーさんの要望が反映されているか、といった細かい部分のチェックをしました。Oさんのサポートをしながら、もう1つの目で制作を支える立ち位置になります。
――Oさんがメインで執筆しつつ、二人三脚でシナリオを完成させたんですね。
シナリオディレクター O:そうですね。序章動画は伏見さんと仲間たちの出会いと旅への出発までを描き、イベント本編につながる物語なのですが、イベントプランナーさんにいただいた企画書をもとに世界観設定とキャラクター設定、シリーズ構成を担当しました。実際の台本はイベントチームのほうで制作いただいたのですが、私は台本の基になる構成部分を担当しています。
イベント本編は構成だけでなく、かなり具体的なところまで任せていただきましたね。伏見ガクエストは物語形式だったので、普段のイベント台本ではニュアンスでとどめておくようなセリフ部分も一言一句まで細かく書いています。
伏見ガクだからこそ輝く、ハッピーな冒険物語
――今回のイベントのシナリオを作成するうえで、特に意識した点はなんですか?
シナリオディレクター O:まず最初にイベントチームから「王道少年漫画のようなストーリー展開にしたい」「往年のRPG的な要素を入れたい」という要望をいただいたんです。そこからアイデアを膨らませていく中で、伏見さんとゲストライバーさんとの友情を掘り下げていき、それがテーマである王道少年漫画のようなストーリー展開に繋がっていきました。さらに、そこにRPG要素をかけ合わせて、徐々に仲間を集めていくような展開にしようと。
伏見さんに「目標を達成するために仲間を増やしていって、観客の応援で困難を乗り越える」というアイデアもいただいていたので、古き良きRPGのネタを盛り込みつつ、プロットに落とし込んでいったんです。にじさんじのファンの方は若い人も多いと思うのですが、そういった方々には往年のストーリー設定が逆に斬新に見えるかもしれません。古いものを踏襲しつつも目新しい台本にしたい、ということは意識して作っていました。
【伏見ガクソロイベント】#伏見ガクエスト 序章動画「Quest6 旅立ち」
――Oさんから見た伏見さんの印象はいかがですか? 伏見さんのキャラクター性やこれまでの活動を活かしたシナリオ作りなどもされたのでしょうか?
シナリオディレクター O:伏見さんはとにかくエンターテイナーですよね。以前から人を楽しませるのが好きな方だなという印象がありましたし、人を喜ばせることを第一に考えられていると思うので、台本もなるべくシリアスにしないようにしています。また、「観客の皆さんの力で困難を乗り越える」というパートは伏見さんからのご希望だったので、そこにはこだわって印象的に書かせていただきましたね。
イベントの中では途中、パーティが全滅してしまうという少しハードな展開もあるんですけど、それを観客の皆さんの力と伏見さんの明るさや情熱で乗り越えていくんです。一貫して仲間とお客さんを信じるという展開は、伏見さんのキャラクターがあってこそ輝くものだと思います。
また、伏見さんのイベントということを意識して、「イベントを見た人に元気になってもらいたい」という思いでシナリオを作っていきました。伏見さんのイベントでハッピーにならないわけがないと思っていたので! お客様全員に幸せな気持ちになっていただきたいですね。
シナリオ進行管理 S:イベントのサブタイトルにもなっている「〜伝説の調理器具(ピース)を求めて〜」という部分に関してなんですが、「調理器具を探す」という設定はイベントプランナーさんから最初にいただいたものなんです。旅に出るそもそもの目的にも伏見さんらしさがありますが、その伝説の調理器具(ピース)を見つけて、みんなと一緒においしい料理を作って食べる、というシナリオは伏見さんでしか成り立ちませんよね。
伏見ガクのこだわりが込められたシナリオ「『これでいいや』は絶対にない」
――伏見さんやイベントチームとのやりとりで特に印象的だったエピソードはありますか?
シナリオ進行管理 S:伏見さんから台本のフィードバックをいただいた際に、印象的な指摘がありましたよね。物語の中でパーティーが全滅してしまうのですが、そこで会場の力をもらって復活する流れになるんです。我々の作った台本では、魔王戦の途中から復活することになっていたのですが、それを伏見さんは「魔王戦の途中からではなくて、最後に冒険の記録をセーブしたところで復活させたい」とおっしゃったんです。
「伏見さんはなんでこういうふうに直したんだろう?」と考えたときに、「確かに往年のRPGの仕様だったらそうするべきだ!」と気付かされました。普通に考えるとテンポが悪くなってしまうのですが、世界観をより忠実に再現するためには必要な修正だったんです。
シナリオディレクター O:「なるほど、そういうことかー!」と。そのようなやりとりを経て、私も伏見さんのやりたいことがどんどんわかるようになっていったんです。伏見さんのアイデアがあることによって、私たちだけでは作れないシナリオになっていきました。
シナリオ進行管理 S:シナリオライターという仕事は自分の書いた文字自体がコンテンツになることが多いですが、ANYCOLORで作るシナリオはそうじゃないことのほうが多いです。普段制作しているボイス台本や今回のイベント台本がまさしくそうなのですが、ライバーさんの味付けがあってこそ、初めて価値や魅力が生まれて完成するということですね。
シナリオディレクター O:ライバーさんに手を入れていただくことで「こんなに面白くなるんだ」ってくらいよくなるんです。シナリオを書いている自分自身もどんなものが完成するかわからない楽しさがありますよね。
――ライバーさんの手が加わることによって、シナリオが完成するんですね。
シナリオディレクター O:この仕事をしている中で、「ライバーさんはさすがだなー!」と思うことがたくさんありましたね。手を加えていただいたところに納得感があるし、どうすればお客様に喜んでもらえるかわかっていらっしゃるんだと思います。今回に関しても、伏見さんにしか出せないであろうアイデアが多かったですね。
シナリオ進行管理 S:それに我々が提案したものに関しても受け入れていただいたうえで、さらにブラッシュアップするためのアイデアを出していただくことが多かったんです。一緒に作らせていただいた感覚が強かったので、我々としても伏見ガクエストチームの一員として受け入れてもらえた感じがしてうれしかったですね。イベントの土台作りに携われる機会をいただけて本当に光栄です。
伏見ガクエスト 〜伝説の調理器具(ピース)を求めて〜 キービジュアル
――今回のイベントでファンの皆さんに注目してほしいポイントはございますか? 最後にシナリオチームとして、伏見ガクエストをご覧いただく皆さんに向けたメッセージをいただきたいです。
シナリオ進行管理 S:イベント自体は伏見さんやファンの皆様のものだと思うので、私があまりどうこう言えるものではないんですけれども……これだけはお伝えしたいというのが、本当に伏見さんのこだわりが詰まっているということです!
伏見さんとは台本の初期段階からやりとりをさせていただいたんですが、どんどんアイデアを出して熱量高くイベントに臨まれていて、「これでいいや」という妥協は一切ありませんでした。少しでも面白いものを提供したいという熱量を感じるタイミングがたくさんあったんです。
今取材を受けている5月中旬時点では、台本は私たちの手を離れて、伏見さんやイベントプランナーさんに最終調整いただいているのですが、イベントは伏見さんやゲストライバーさん、イベントプランナーさんによって、きっと唯一無二のものに仕上がるはずです。伏見さんがファンの皆さんのために作られたイベントなので、楽しんでいただけたらうれしいです!
シナリオディレクター O:本編の中にはお客さんがいないとストーリーが進まないパートがあるんです。お客さんの応援と温かいまなざし、そして情熱的な盛り上がりが必要なので、そのときは全力で応援していただきたいですね。本番は伏見さんを始めとする出演者の方々、会場の皆さんにもめちゃくちゃ盛り上げていただいて、最高のイベントになることを祈っています。