グッズからLive2Dまで!デザイン部を構成する4つのチーム
――まずはデザイン部の役割と、現在の組織体制について教えてください。
デザイン部長・グラフィックデザインチームマネージャー S(以下、デザイン部長 S):まず自分から、デザイン部がどんな組織なのかをざっくりお話ししますね。大きく占めているのがライバーさんの2Dの姿をお仕立てさせていただく3つのチームです。その内訳としては、新人デビューのビジュアルを手がける「ライバーアートチーム」、その名の通りLive2Dを担当する「Live2Dチーム」、社内外の連絡窓口として円滑に進行管理を行う潤滑油のような「2D進行チーム」という構成になっています。
もう1つほぼ独立して存在しているチームが、グッズデザインやライブ、メディア周りなどのグラフィックデザインを担当する「グラフィックデザインチーム」になりますね。
――本日お集まりいただいた皆さんは、NKさん以外はグラフィックデザインチームの方々ですね。それでは皆さんが普段担当されている業務内容について、それぞれお伺いできますか?
グラフィックデザイナー M:私は現在、にじたうんをメインで担当していて、デザインや監修をやらせていただいています。ほかにも「にじさんじオフィシャルストア」で販売されるグッズやイベント向けのグッズデザインも担当していますね!
アートディレクター・グラフィックデザイナー J(以下、アートディレクター J):私も業務としてはほとんどMさんと一緒で、グッズデザインに加えて、イベント関連のデザインやロゴ・CD、最近は少なくなりましたが番組サムネイルなど、社内から依頼があったグラフィックデザイン全般を担当しています。
アートディレクター・グラフィックデザイナー NY(以下、アートディレクター NY):私も業務内容については、MさんとJさんとほとんど同じですね。
――JさんとNYさんはアートディレクターという肩書きもお持ちですが、こちらはどういった業務になるのでしょうか?
アートディレクター J:アートディレクターとしては、直接担当していない案件の監修をしたり、後輩のサポートをしたりするのが中心ですね。あとは、他部署から「ビジュアルのコンセプトは決まっているけれど、それ以外の部分が決まっていないんです」というような相談を受けて、「具体的な構図やデザインのトンマナ(※1)はこんな感じで持っていきましょう!」といったお手伝いをさせていただくこともありますね。カッコいい名前がついてはいますが、やっていることはデザイナーの延長線上にあります!
※1→「トーン&マナー」の略。デザインや表現における全体の雰囲気、世界観、色使いなどの一貫性やルールのこと。
――ご説明いただきありがとうございます! それではNKさん、Sさんの業務内容について、教えていただけますか?
Live2Dチームマネージャー NK:僕はLive2Dチームのマネージャーを担当しています。入社してからやってきたのは、Live2Dの仕様の制定や発注ルールの構築、クオリティの基準作りですね。僕が入社した2019年当時は各モデラーの裁量や作家性に委ねられている部分が大きく、それぞれが独立してLive2Dを制作して納品していたのですが、今後たくさんライバーさんをお迎えして制作物が増えていくことを見越すと、均一なクオリティを保てる仕組みが必要でした。ですので、どのモデルでもしっかりクオリティラインを保ってライバーさんやファンの方々に喜んでいただくためのルール作りをしてきた感じですね!
デザイン部長 S:自分の主な業務は部長として、メンバーの課題解決をすることですね。1on1を行い、その時々で出てくる課題を聞いて解決策を講じつつ、必要に応じて他部署への交渉などを行うことも多いです。あとはサブ業務として、3Dモデルに問題がないかを確認する監修業務も担当しています。
にじさんじの成長を支えた古株メンバーと、当時のデザイン部
――今回のテーマは「デザイン部の変遷」ということで、在籍歴の長い皆さんにお集まりいただきました。皆さんの入社時期や、その当時の部署の雰囲気について教えていただけますか。
デザイン部長 S:入社は2019年3月ですね。簡単に入社経緯についてもお話しすると、当時いちから(現ANYCOLOR)に勤めていた知り合いの方から「手伝ってほしい!」とLINEが来たのがきっかけでした。自分は他社でソーシャルゲームのアートディレクターをやっていたのですが、ちょうどにじさんじを見ていたため、「面白そうだし行ってみるか!」と(笑)。いざ入社してみると、チームの大半が若手メンバーということもあり、まずは体制づくりに専念していきました!
――Sさんが中心となって黎明期のデザイン部を支えてこられたんですね。ちなみに今日いらっしゃる皆さんの中で一番在籍歴の長い方はどなたでしょうか?
グラフィックデザイナー M:私はSさんより社歴が長くて、2018年5月頃に学生インターンの1人として入社してからそのままいます(笑)。大学3年生のときにVTuberの文化に惹かれて入社して、最初はLive2Dの案件を数件担当した後に、イラストレーターさんとの連絡対応などの制作進行を1年ほどやらせていただきました。ほかにも、美大でPhotoshopを触っていた経験を活かしてグッズデザイン業務を行うなど、本当にいろいろなことを担当させていただきましたね! それに、自分にデザイン知識がほぼない学生の頃からこの会社にいることもあって、他社から中途で入社された方々からさまざまなことを教えていただけたと感謝しています。
Live2Dチームマネージャー NK:僕は2019年4月入社です。今日集まっているメンバーは古株ばかりですが、今では人数もかなり増えているのでチーム内ではシーラカンスみたいな存在です(笑)。バリバリのプレイヤーとして入社したつもりでしたが、2019年末頃にはリーダー的ポジションになっていました!
デザイン部長 S:当時、チームの人員状況が厳しくて「自分1人でチームのすべてを見るのは無理だ!」と思い、NKさんをリーダーに指名させていただきました(笑)。仕様決めやクオリティチェック、Live2Dに関するメンバー育成など、自分1人では難しかった部分を見ていただけたので、あのタイミングで入ってきてくれて本当に助かったなと思っています。
アートディレクター NY:私が入社したのは2020年3月です。当時はアートディレクターが1人とMさんを含むデザイナー3人体制で、少人数で手広くさまざまな案件をやっていましたね! 前職ではあまり経験してこなかった販促画像制作や、クラウドファンディング企画「にじさんじアパレルグッズプロジェクト」でのアパレル制作など、新しい経験をたくさんさせていただきました。
アートディレクター J:私はこのメンバーの中では一番最近で、2022年11月入社です。皆さんの話を聞いていると、私が入社したときはかなり環境が整った状態だったんだなと思いました(笑)。
Live2Dチームマネージャー NK:初期からある部署だからこそ社内にネットワークが広がっていて、当時からいる古株の社員が今では各部署の中心メンバーとなって散らばっているんですよね。そういった意味では、他部署との交渉や助け合いが非常にスムーズにできる強みがありますよね。
拡大期からサポート強化へ、デザイン部の転換点
――デザイン部が組織として成長してきた中で、体制強化の転換点となった出来事はありますか?
Live2Dチームマネージャー NK:明確な転換点は、会社として「ライバーさんへのサポートやケアをより一層強化していこう」という方針が明確になったタイミングですね。ここが一番大きな転換点だったのかなと思っていて。
もちろん、それまでもライバーさんのサポートが疎かになっていたというわけではありません。初期の拡大期は新しい展開やコンテンツづくりが目まぐるしく走っていた時期でもありました。そうした怒涛の展開が一度落ち着いて、組織として次のステップへ進むタイミングで、サポート体制のさらなる強化とデザイン部の組織改革がうまくリンクしていったイメージですね。今いるライバーさんにこれまで以上に活躍していただくために組織を分厚くしてきたおかげで、現在の盤石な体制につながっていると感じています。
デザイン部長 S:最初期は人が少なくて、ライバーさんの新衣装を回すだけでも手一杯になってしまっていて。そう考えると、今は節目の衣装制作のスピード感も以前より上げられていますし、新人ライバーさんのサポートも並行して進められているので、部としては安定してきたという実感がありますね。
――会社としての方針の転換にあわせて、より強固なサポート体制が整っていったんですね。ほかにデザイン部の体制強化について皆さんがご尽力されたことなどはありますか?
アートディレクター NY:私が入社した2020年当時は「誕生日グッズ」ができ始めた頃で、グッズプランナーさんと会話を重ねながら、いろいろなグッズ施策を展開している時期でした。そこで現在もグラフィックデザインチームが使用している依頼書のフォーマットを作り、プランナーさんから情報を整えてもらって依頼を受け、デザイナーが制作するという運用フローを構築したんです。
その後、2024年頃に大規模なイベントグッズを出すにあたり、Sさんとも相談してデザイン部の人員を増やしていくことになりました。直近はさらににじさんじの規模感が大きくなってライバーさんも増えているので、デザイナーもすごい勢いで増員していっていますね。
デザイン部長 S:それと自分が入りたての頃から構想していた「デザイン部に進行管理を入れたスキームを作りたい」という体制を実現できたことも大きかったですね。この体制変更がなければ、ここまでさまざまなクリエイティブを世に送り出すことはできなかったかもしれません。少人数で回していた頃に常態化していた「デザイナーが物作りと同時に連絡窓口も兼ねる」というのは少しハードだったので、クリエイティブに専念できる環境を作れたのは本当によかったなと。
アートディレクター J:グラフィックデザインチームに進行管理がいるのは、多分業界的に見ても珍しいんじゃないかと思いますね。本来、プロデューサーやプロジェクトマネージャーが担うような部分を担当いただけて、とても助けられています!
あえて「変えない」Live2Dデザインの美学
――ライバーさんやプロジェクトの増加に伴い、デザイン部のクリエイティブはどのように変化しましたか? 逆に変わらず大切にしていることはなんですか?
デザイン部長 S:デザイン部ってグラフィックデザインチームを除くと、ほぼ売上に直接関与する部署ではないんです。だからこそ、「とにかくライバーさんに満足してもらえるものを作る」という姿勢は昔から変わらず大事にしています。至らないところも多々ありはしますが、そういった点はずっと注力している部分ですね。
昔から新規衣装を準備するときにライバーさんが「ここを変えたいけど、どうしたらいいかわからない」と悩んでしまったときは、「ここはこう直すのはどうですか?」と直接お話しながらライブドローイングで形にしていたのですが、その精神が今のメンバーにも受け継がれていて。現在も、ライバーさんの修正希望をデザイン部の担当者がコミュニケーションを取りながら形にするという取り組みを続けています。
Live2Dチームマネージャー NK:人数が増えたことでアイデアのリソースや視点が増え、多角的なサポートができるようになったのも間違いなくありますよね。一方でLive2Dに関しては、「一貫したクオリティを保つこと」を信条にしています。
長く活躍されているライバーさんだと、これまで積み重ねてきた歴史がありますよね。その中で、デフォルト衣装と最新衣装とで、動いた際の雰囲気や印象が変わってしまうと、ファンの方々が感じる「その人らしさ」を損ねかねません。ですので、どの衣装であっても統一されたクオリティで「そのライバーさんとしての魅力」が届くよう、全体のバランス調整には細心の注意を払っています。単に見た目を豪華にするだけでなく、ライバーさんの表情や所作がより魅力的に映るようにするために、どうしたらいいかを日々突き詰めているんです。
――芯となる部分は一貫性を持って変えない一方で、それ以外の部分をより突き詰めてこられたんですね。
アートディレクター NY:グラフィックデザインチームでは、それぞれのライバーさんらしさをどう落とし込むかを大切にしながらデザインしています。ただのグッズではなく、ライバーさんのよさや配信での小ネタのような表現をなるべく反映して、ファンの皆様に「これあのときのやつだ!」と気付いていただけるようにしているんです。
アートディレクター J:変化としては、3D関連のデザインを担当することも増えてきました。マイクなどプロップ(※2)のデザイン依頼が増えましたし、あとはとにかく、ぬい(ぐるみ)がブームですよね。ぬいに関するデザイン案件はかなり増えました!
※2→小道具のこと。配信やライブなどでライバーが持ったり身に付けたりするアイテムやオブジェクトのモデル・デザイン。
――そんなにぬいぐるみ関連の案件が増えているんですね。
一同:(うなずく)
アートディレクター NY:ぬいぐるみの勢いは本当にすごいですね。デザインを生み出したのはMさんです!
グラフィックデザイナー M:にじまるっとやにじたうんなどは、にじさんじを知らない方でも「かわいい!」と買ってくださり、そこからライバーさんの配信を見てくださるような広告的な窓口にもなりつつあるんです。
アートディレクター NY:たしかに最近は他IPのぬい好きな方が「にじさんじのぬいの服や小物がかわいい!」と買ってくださることも増えましたよね。
グラフィックデザイナー M:はい! ぬいのほかにもアクリルスタンドやチェキ風グッズも人気で、店舗さんから「置いてほしい!」と言っていただけることも増えました。そういったお客様からの反応をSNSで直接見られるのは本当にうれしいです。
VTuber文化に刻むデザインの足跡
――皆さんが考える「ANYCOLORのデザイン部らしさ」や仕事のやりがいについてお伺いしたいです。
グラフィックデザイナー M:グラフィックデザインチームはみんなクリエイティブへの熱量がすごく高いですよね。お互いがデザインしたものに対して「ここがいいね」「こうしたらもっとよくなるかも」と切磋琢磨したり、「本当によかったから自分でも買っちゃいました」と実際にグッズを買って満足感を確かめたり。ライバーさんや買ってくれたファンの方々のことを第一に考える姿勢がすごく強いと思います。
アートディレクター NY:そうですね。ライバーさんへの理解度が高い人が多く、それをクリエイティブに落とし込もうとしているという姿勢がありますよね。
デザイン部長 S:Live2Dチームも、「絶対に中途半端なクオリティで世に出さないぞ!」という熱量がありますよね。こだわり抜いてブラッシュアップしきってから出す気概を持ったメンバーばかりです。
アートディレクター J:私はライバーさんの数だけデザインの幅が広がるのが、うちのデザイン部のいいところだと思っています。前職の広告代理店でもいろいろ作っていたのですが、今はそれ以上に幅広いジャンルのデザインに触れさせてもらっていて。インハウス(内製)でこれだけ多種多様なデザインに関われる会社は少ないですし、本当に素敵なことだなと思っていますね。
それと、前職ではせっかく作っても世に出ない制作物もあったのですが、うちは基本的にすべてのものが世に出ています。かけた時間や情熱が無駄にならないのは、当たり前のようでいてすごいことだなと感動しました。
Live2Dチームマネージャー NK:VTuberの仕事は企画から制作、リリースまでのスパンが短いので、自分が作って納品したものがすぐに世に出ることも多いですよね。ライバーさんやファンの方々からのフィードバックがすぐに得られるので、がんばった後にすぐお褒めいただけることがあるんです。これは採用へ向けたアピールポイントとしてお伝えさせてください(笑)。
――にじさんじのクリエイティブにおいては、トレンドを意識したものも積極的に取り入れられている印象がありますが、そういった意識は皆さんお持ちですか?
アートディレクター NY:そうですね。みんな貪欲なので日々いろんな参考資料を集めて、施策に合ったものを落とし込めるようにしている人が多いかなって思います。あとはグッズプランナーさんもすごくトレンドを押さえている方ばかりなので、それも相まっていいものを作れているのかもしれません。
デザイン部長 S:新人デビューのお仕立てをさせていただく際も、「世間的な傾向として装飾が過多になってきたから、そろそろシンプルなデザインが見たいんじゃないか」とファンの方々の目線で先回りして、企画を練ることもありますよね!
Live2Dチームマネージャー NK:もちろんトレンドを取り入れることも意識している部分ではありますが、流行っているから作るのではなく「僕らが作るものを次の流行にする」という意識も持っています。そういった流行の部分を一番考えているのはプロデューサー陣にはなるんですけど、数年後の未来を見据えて、僕らも同じ意識で関わらせてもらってはいます!
――時代の変化を捉えながら、新たな表現を生み出しているんですね。それでは最後に、今後デザイン部としてさらに強化していきたい領域を教えてください。
デザイン部長 S:さらに体制を整えて、デザイン部としての受注件数を増やしていくことが大きな使命だと思っていますね。今後はもっと新規衣装の制作にも取り組んでいきたいので、業務効率化の部分は過剰なくらい強化して、なるべくクリエイティブに注力し、ライバーさんやファンの方々に満足いただけるようになりたいなと!
Live2Dチームマネージャー NK:そうですね。ファンの方々やライバーさんに喜んでもらう機会を増やすことを一番に考えています。Live2Dチームとしては、配信モデルだけでなく「ウィンターデート」のプロモーションPVや、大型街頭ビジョン広告のように、2D表現を活かした領域をどんどん強化していきたいですね。
アートディレクター J:クオリティを落とさずに案件を進行することはマストとしつつ、世間にはまだVTuberと2次元キャラクターを同じものと認識している方もいらっしゃると思っていて……。そういったイメージをお持ちの方に、デザインの力を通してライバーさんならではの魅力を伝えられるようになっていきたいなと思っています。
アートディレクター NY:そうですね。歴史が重なってきたからこそ、ユーザーさんを飽きさせない深みのあるデザインを追求していきたいですよね。
グラフィックデザイナー M:先ほど話に上がった3Dプロップなど、印刷物以外の領域でも他部署と協力しながら、個人でもグラフィックデザインチーム全体としてもやれることや知識を広げていけたらと思っています。
――これからも新たな表現や領域に挑戦する中で、さらにANYCOLORならではのデザインの可能性が広がっていきそうですね。
Live2Dチームマネージャー NK:昔、グラフィックデザインチームが作った「誕生日グッズ」のテンプレート画像って、ひとつの完成されたデザインフォーマットとして広く親しまれるようになりましたよね。Live2Dチームが提唱したライバーさんの表情・仕草を追求する「3.0 Brushup!!(※3)」という概念も、業界全体に広まってデファクトスタンダード(※4)になりつつあります。
何もないところから保守的にならず攻めていった結果、業界の標準となるような文化を残してきた。VTuber文化の発展に携わってきた会社でありチームなんだということは、この機会に言っておきたいことの1つでした(笑)。
※3→にじさんじが推進するLive2Dモデルの大型アップデート。従来より豊かな感情表現が可能となり、さらに細やかな手・身体の仕草を再現できるようになる。
※4→公的な標準化機関による規定ではなく、市場における競争や実績によって「事実上の業界標準」となった規格・仕様・運用のこと。
グラフィックデザイナー M:本当にそうですよね。誕生日グッズのフォーマットは私も関わらせていただきましたが、自分たちが作ったフォーマットがほかでも参考にされているのを見ると、少し誇らしい気持ちになります。
デザイン部長 S:昔は大変なこともありましたが、今のデザイン部というチームで物作りを続けられているのは本当によかったです。今後もこの体制でよりよいクリエイティブを追求していきたいですね。