「個性豊かなライバーの“統一感”を出すには?」共通衣装の企画背景
──まず、皆さんが普段されているお仕事の内容について簡単に教えていただけますでしょうか?
チーフイベントディレクター 鈴木(以下、鈴木):ANYCOLORのイベント全体を見ながら、ディレクターを担当しています。イベントの年間計画や予算組みといったところから、各公演の企画・ディレクションまで幅広く携わっています。
アートディレクター 神谷(以下、神谷):デザイン部の副部長で、イベントや音楽周りのデザイン監修から自分のチームのデザインチェックといったところまで、基本的なアートディレクション全般を担当しています。
イラストレーター 岩本ゼロゴ(以下、岩本):フリーのイラストレーターで、普段はアプリゲームやコンシューマーゲームのキャラクターデザインや書籍のカバーイラストなどを描かせていただいています。
にじさんじさん関連だと、共通衣装ライブのキービジュアル、グッズイラストなどを担当させていただいていますね。衣装デザインのご依頼をいただくことも多くて、七次元生徒会!さんや楽団V!VOさん、緑仙さんのアーティスト衣装のデザインもやらせていただきました。
岩本ゼロゴが制作した七次元生徒会!のキービジュアル&制服デザイン。
──では続いて、共通衣装ライブや共通衣装制作におけるご担当箇所について詳しく教えて下さい。
鈴木:共通衣装ライブの構想自体は会社から下りてきたものだったのですが、それを具体化に落とし込んでいくところは私がメインで担当させていただきました。最初の共通衣装ライブ「FANTASIA」も基本的にディレクションをしていて、それ以降の共通衣装ライブ自体のブランディングも私が一通り考えつつ進めています。
神谷:共通衣装ライブに関してはキービジュアルのアートディレクションを担当しました。共通衣装のデザインに関してはディレクションをしたと言っていいのか……一番最初の根底を考えたという意味ではディレクションしたと言えるかもしれませんが、その先は岩本さんに素晴らしいデザインをいただいたので、おんぶにだっこだったと言いますか(笑)。
岩本:いえいえ、そんな(笑)。私が担当したのはベースとなる衣装デザインですね。男女それぞれ上下3パターンずつの組み合わせを考えてデザインしました。あとは袖の長さやボトムの形のアレンジ案出しもさせていただきましたね。
神谷:共通衣装の方向性は、僕だけじゃなくて鈴木さんとも話して決めたんですが、岩本さんに依頼したところ、僕らの想像を超える素晴らしいデザインを上げていただきました。
「にじさんじ4th Anniversary LIVE『FANTASIA』」キービジュアル
──「にじさんじ4th Anniversary LIVE『FANTASIA』」でお披露目となった共通衣装ですが、どのような着想から生まれたのでしょうか? 企画背景について教えて下さい。
鈴木:ライバーそれぞれにいろんな個性があって、ビジュアル的にも大きく異なるところがにじさんじの魅力の1つではあるのですが、今後にじさんじという大きい箱でイベントをやっていくことになったときに、あまり統一感が出せないのではないかという懸念があったんです。共通衣装として出演者全員の衣装が1つにまとまっていると、箱としての統一感が出せるかもしれない、というところが最初の企画背景になります。
また共通衣装ライブも1回だけで終わらせずに、将来的にどんどん人を増やして続けていきたいと考えていたので、ライバーに共通衣装を着てライブに出ることも目標の1つにしてもらえるような企画にしていきたいという思いもありました。
──では衣装自体のデザインの着想や大枠のコンセプトはどのように決まっていったのでしょうか?
神谷:まず、今鈴木さんが言っていたような「共通衣装を着てライブに出ることを目標にしてほしい」となったときに、どんな衣装がふさわしいのかを考えたんです。単純にカッコいいとかかわいいというよりも、もう一段階上の感覚と言いますか。言語化が難しいのですが、ざっくり言うと“素晴らしい衣装”にしたいと思いました。
そういったところから高貴なイメージでありつつ、個性豊かなライバーの顔や髪型、体型にも合ってどんなライバーが着ても様になる衣装、というところからイメージを膨らませていきました。
鈴木:そうですね。ライブで着るからといってアイドルっぽい衣装にしていくよりも、スーツやドレスに近いような衣装にしたい、というところは明確に意識していた部分ですね。後は衣装を上下で数パターンずつ作ってライバーが組み合わせを選べたり、自分の入れたい小物をワンポイントで入れられるような余白を残しておきたいと思っていました。同じ共通衣装でありつつも、ライバーの個性を活かしたいという思いは一番最初からあったんです。
──そのようなイメージから岩本さんはどういったことを考えてデザインを進めていったのでしょうか?
岩本:全体的な雰囲気や装飾のイメージは、「にじさんじ JAPAN TOUR 2020 Shout in the Rainbow! 東京リベンジ公演」のキービジュアルを1番最初にお見せいただいたんです。紺色と白と金色を基調に全員に似合う形を目指そうというところと、今おふたりが話されていたようなイメージから膨らませて考えさせていただきました!
共通衣装制作の裏側、岩本ゼロゴ「総当たりの対戦表を作って……」
──それぞれのご担当箇所において、共通衣装を制作するにあたり、こだわった点や大変だった点などを教えてください。
鈴木:大変だったところで言うと、先ほどご説明したライバーごとのモチーフの部分ですね。ライバーによっては自分のやりたいことを詰め込もうとするあまり、ほかと足並みが揃わなくなってしまいそうになることが度々あったんです。
そのため、本人がやりたいことも最大限考慮しつつ、共通衣装としてのトンマナを守るというところで、実現できるかできないかを都度判断させていただきました。そういったルールを整備をしていくというところは私の方で考えていた部分ですね。
とはいえ、やはり岩本さんがデザインしてくださった衣装が上下のパターンだけでなく、袖やスカートの長さが調整できる柔軟性のあるものだったので、だいぶ広い受け皿があったというのはすごく感じていました。
神谷:先ほど話した内容と重なるところもあるのですが、やはり共通衣装のブランディングであったり、複数パターンを組み合わせて誰が着ても成立する仕組みを考えるという部分はこだわったところですね。
ただ岩本さんにこういった我々の意図を上手く汲み取っていただけたので、自分がこだわったのは根本の部分だけというか。デザインいただいたものもほぼ即決で選ばせていただきましたし、結果的に素晴らしいものができてうれしく思っています。
岩本:実際に組み合わせをどうするかはめちゃくちゃ悩んだところでしたね。多めに衣装ラフの案出しをして、総当たりの対戦表みたいなものを作成したんです(笑)。これとこれを合わせるとこうなりますよっていう表を作って、そこから神谷さんに選んでいただきました。
あとこだわったところで言うとウエストラインが上下ではっきり分かれて、切り換え部分がくっきり出ちゃうのを避けたい、というのは個人的に考えていた部分ですね。できるだけ下パーツの腰回りを均等にして、上着のラインは少し上げました。こうすることでウエストラインが出るのをできるだけ避けたデザインにしましたね。
神谷:女性のタイトパンツと三枝さんとかが着ている男性のゆったりとした上着は僕らも想定していなかったようなデザインだったのですが、組み合わせるとすごくガチッとはまって驚かされた記憶がありますね。いい意味でびっくりしました。
岩本:女性のショートパンツのパターンは私も結構気に入っているんですけど、どの角度から見ても絵になるように意識してデザインしました。
神谷:変な意味ではなく、あのデザイン素晴らしいですよね(笑)!
岩本:あと男性のズボンにひらひらがついたものも気に入っています。ライバーさん全員の雰囲気が洋風なわけではなく、和風な方もいらっしゃいますよね。そういった方にも対応できるようなデザインを作りたいと思って、スカート状のパーツを付けてみたんです。もしかしたら採用されないんじゃないかなと思いつつ、一案として提出したら意外にも選んでいただくことができました。実際着ている姿を見ると、すごく華やかだったのでデザインしてよかったなと思いましたね!
にじさんじライバーにも好評を博した共通衣装
──共通衣装はライバー自身がアイデアを出したアイテムやモチーフが取り入れられているのも見どころの一つとなっています。制作の過程において、ライバーからの要望で印象的だったものはありますか?
鈴木:夜見れなさんの「ソックスの形を自分の衣装に合わせてうさぎの形にしたい」という要望は印象に残っていますね。ソックスについては特にルールを設けてはいなかったんですが、小物ではない形で自分の個性を出していたので面白い取り入れ方だなと思いました。
にじさんじライブ共通衣装・夜見れな
神谷:自分は月ノ美兎さんのウサ耳ですね。ウサ耳がなければ本当に高貴なお姉さんのイメージになってしまったかもしれないですが、あることによって月ノさんの唯一無二のかわいさが残っているなと。
もう1つはアイテムじゃないんですけど、緑仙さんの衣装が上下で男性用と女性用を組み合わせた衣装になっていますよね。もともと男女それぞれのパーツを組み合わせるというのは想定されていなかったと思うのですが、「岩本さんまさかこれも見越して……!?」みたいな(笑)。本当にあれはびっくりしましたし、印象に残っていますね。
にじさんじライブ共通衣装・月ノ美兎
にじさんじライブ共通衣装・緑仙
──でき上がった衣装を見たライバーさんの感想で何か印象的だったものはありましたか?
鈴木:皆さん喜んでいらっしゃった印象ばかりですね。少し言い方が難しいのですが会社で用意した企画がライバーさん自身のブランディングと衝突してしまうことも、あるにはあるんです。ただ、この共通衣装に関してはみんな好意的に受け止めてくれていますね。
神谷:鈴木さんが言ったように、ネガティブなことがなかったなっていう印象はありますね。「FANTASIA」でお披露目してから「自分も欲しいです!」って言われる機会がたくさんあったので、当初考えていた「ライバーさんにこの衣装を着ることを目標にしてもらう」という目的は達成できていたんじゃないかなと思っています。
──岩本さんにもライバーさんの感想は届いていましたか?
岩本:そうですね、皆さんに喜んでいただいてデザインを担当できて本当によかったです。衣装に合わせて「この髪型にしたい」「この帽子を被りたい」というこだわりをお伺いすることもあってうれしく思っています。
実際にライバーさんが着用しているところを見て思ったところだと、デザイン時に考えていた和洋折衷でも違和感のないデザインという部分で、長尾さんの刀装備は自分が想像した以上にしっくりきたので印象的ですね。剣舞を披露されたときの印象が強く残っています。
後は髪の長いライバーさんの場合、衣装と髪のボリューム感がぶつかってほしくないと思っていたんですが、サロメさんのような髪にボリュームのある方に着ていただいてもいいバランスにすることができたと安心しました。
にじさんじライブ共通衣装・長尾景
にじさんじライブ共通衣装・壱百満天原サロメ
「にじフェス」では実物の共通衣装展示も!「ライバーと同じ世界にいることを感じてほしい」
「にじさんじフェス 2023」共通衣装展示の様子。
──「にじフェス」の会場ではリアルの場で衣装展示が行われます。こちらの企画背景はどういったものだったのでしょうか?
鈴木:にじさんじプロジェクト全体でもそうですし、特にイベントではライバーたちが実際に同じ世界にいるという実在感を感じてほしいと常々考えているので、その一環としてライバーたちが着ている衣装を展示したいというのが企画背景ですね。今となっては「にじフェス」の恒例企画にすることができましたし、ファンの皆様にも好評をいただいています。
──元々2次元だった衣装を3次元で表現していく際にこだわったことや大変だったことはございましたか?
神谷:本当に大変なんだから、これ(笑)。
鈴木:知ってますよ(笑)。すごい点数やってくれてましたもんね。
神谷:サイジング、そして素材感にはかなりこだわったのでぜひ見ていただきたいですね。岩本さんのイラストデザインと100%同じものを作るのは難しいんですが、それでも素材感や色の具合はなるべく差異がないように意識しました。作ってくれた業者さんもすごいがんばってくれたので、僕は素材や色選びの部分でいかに実在感を出しつつ、岩本さんのデザインに近づけていけるかという部分に注力しました。
「にじさんじフェス 2023」共通衣装展示の様子。
「にじさんじフェス 2023」共通衣装展示の様子。
岩本:最初はまさかリアルで同じものを作ると思っていない状態でデザインしたので、先程話に出た三枝さんに着ていただいてるジャケットも無茶な形にしてしまったなと思っていたんです(笑)。ほかにも「これは再現するの難しいだろうな」みたいなデザインをいろいろと入れちゃったのですが、しっかりと作っていただいて感動しました。
──最後に「にじフェス」の会場で共通衣装のどんなところに注目してほしいか、楽しみにしているファンの方に向けてひとこといただけますか?
鈴木:岩本さんにデザインいただいた共通衣装を神谷さん含め、いろいろな方のご協力で本当に1つひとつしっかり現実に落とし込んでいただきました。会場にいらっしゃる方にはその実在感を感じてもらえればと思います。
神谷:やっぱり元の素晴らしいデザインを実際に目で見て身近に感じてもらいたいのと、先ほど言ったようなこだわった部分をちょっとでも気にかけて見てくれるとうれしいです。いつもの画面越しとは違う実在感を楽しんでください。
岩本:全方向からグルッと回って見ていただけるような展示になっているので、好きな角度やライバーさんのこだわりポイントを見つけて楽しんでいただけたらと思っております!