「本気で作ったいいスタジオ」でスタッフのモチベがアップ
──今回は3Dチームの皆さんにお話を伺っていきます。まず、皆さんが普段どのようなお仕事をされているのか教えてください。
3Dスタジオディレクター 高木(以下、高木):スタジオ部の3Dチームでディレクターをやっています。主な業務内容としては3Dの配信・収録系の取りまとめですね。現場でのディレクション・スケジューリングのほか、ライバーさんや社内スタッフから届いた要望に、3Dの分野ではどうやって応えられるのかを考えたりしています。
リードモーションキャプチャーオペレーター / 主席エンジニア 山内(以下、山内):僕はテクニカルクリエイティブ部のR&D(Research and Development)チームに所属しています。仕事内容としては幅広く担当していますが、主なものでいうと、イベントなどの現場で使われるモーションキャプチャーの演出について、どうやったらライバーや演出監督の要望を叶えられるか考えるか、ということをやっています。
その傍らで、R&Dチームの人間ですから、研究開発としてプログラミングをしたり、モーションキャプチャーの研究をしたり、ときにははんだごてを使う作業をすることもあります(笑)。実際に手に触れられる物からバーチャル世界の物にいたるまで、さまざまな分野の“研究開発”が担当です。
モーションキャプチャーオペレーター 藤本(以下、藤本):スタジオ部の3Dチームで、モーションキャプチャーオペレーターをしております。業務内容を簡単にご説明すると、通常の3D収録や配信においてライバーさんがいるバーチャルの世界を映像として映す役割を担っております。僕たちの仕事の流れとしては、山内さんたちのチームに3D配信上で使用する技術を開発していただいて、高木さんと僕たちが運用する、という形です。
山内:さらに細かくお話すると社内スタッフから相談された仕事を、高木さんが「こうすれば実現できるな」と考えて、藤本さんに実際に動かしてもらっています。そのうえで、スタジオ部だけではどうしても解決できないことや、新しい技術が必要な場合はR&Dチームが研究開発して実現させる、ということもあります。
──ありがとうございます。3D配信を行ううえで重要な各ポジションを担う皆様にお集まりいただきました。それでは本題ですが、新スタジオが稼働を開始して少し経ちました。皆さんの視点から、新スタジオはどのように便利になりましたか?
藤本:六本木の旧スタジオと比較してモーションキャプチャーエリアが3つに増えたのがうれしいですね。さらにそのうちの1つは旧スタジオ以上の性能になったのは大きいポイントです。
移転前の六本木スタジオの様子。
高木:一番大きい3Dスタジオのモーションキャプチャーエリアの面積は約2倍に広がりました。
山内:それとスタジオの床はそれまで黒一色だったのですが、今のスタジオは白と黒の1m四方のカーペットを市松模様のように交互に貼っているんです。だからライバーさんの立ち位置を測るときに、遠目から見ても「ざっくりこの辺だろう」という目算が立てやすくなりました。全体的に言うと、「いいスタジオを1から本気で作りました」という感じがありますよね。
藤本:そうですね。僕は六本木の旧スタジオ時代に入社したんですが、移転に伴っていろいろ見比べると新スタジオはよりスタジオらしくなったなと思います。本気で作られた施設なのでそのぶん自分の中でも仕事への意識が高まりますし、スタッフの皆さんのモチベーションもすごく上がっているように感じます。
高木:それはあるかもしれないですね。細かいところだと、僕は倉庫が増えたことがうれしいですね。
山内:確かに。それは本当にそう。
高木:今まで1つのスタジオの中にいろんな小道具を置いてたんですが、収納スペースを設けて小道具を部屋の外に出すことによって、カメラが得る情報を極力省くことができるので、トラッキングのしやすさが上がったと思っています。
──今まではモーションキャプチャーのエリア近くに小道具が収納されていたんですね。
高木:はい。今はちゃんとスタジオごとに倉庫が作られたので、環境が整備されて撮影により集中できるようになったんです。
移転に伴い最新機材を大量導入、新システムを用いた構想も膨らむ
──スタジオ移転のタイミングでライバーさんからも要望を聞いていたそうなんですが、その結果鏡が取り付けられたそうですね。3Dスタジオにも鏡が設置されていました。
藤本:トラッキングした自分の姿を見ながらだと踊りにくかったりラグがあったり……という苦労は、ライバーさんからも聞いていて、僕たちも実際にその様子を確認していました。実際に鏡が設置されたことで踊りやすくなったようで、さらにライバーさんがお互いの位置関係を把握しやすくなったようです。収録がなくてスタジオが空いてるときはダンスレッスンのためにスタジオを使うというケースもあるので、モーションキャプチャー以外のスタジオの使い方ができるようになったんだなと感じています。
ANYCOLOR新スタジオのモーションキャプチャーエリア。
──移転のタイミングで機材の見直しも行われたと思うのですが、その点はどう変化しましたか?
藤本:モーションキャプチャーに必要なカメラが最新のものになりました。台数もぐっと増えましたし、スタジオのどこにいても指先までしっかり撮れるぐらいにクオリティが上がっています。部屋が広くなって、その分置ける台数が増えたので、カメラの数は以前よりかなり増えました。
山内:ライバーさんたちが密集したり、物陰にライバーさんがいる状態だとどうしてもカメラが捉えにくくなってしまっていたんですが、台数が増えてカメラの撮影可能エリアが広くなったことでトラッキングが外れる可能性も下がるんじゃないかと思います。
高木:3Dチームとしては機材が強化されたという点を推していきたいですよね。
山内:モーションキャプチャーカメラはVICONのVALKYRIE VK26を今回導入しました。六本木スタジオでは同じメーカーの1つ前の世代のカメラを使っていたんですけど、モーキャプ業界ではまだそっちが主流なんです。ゲーム会社や同業他社でVK26を使っている例があるのは知っていますが、業界全体を見るとまだそこまで広がっていない、という認識です。
加えて、工夫すれば布や紐のような柔軟性のある素材のトラッキングができるOptiTrack、慣性式のトラッキングシステム・MVN Linkなどのシステムもありますね。VICONやOptiTrackはカメラが反応するエリアでしかトラッキングできないんですが、MVNはスーツだけでトラッキングが完結するので、フロア中を回ったり、階をまたいで移動をしても撮れるんです。屋外でのロケもできますよ。
高木:最近だと鏑木ろこさんの3Dお披露目配信などで使いましたね。中にセンサーが入っているからマーカーいらずなんです。いろんなシステムがあってそれぞれ特徴がありますが、それらの良さを組み合わせて配信ができる点がうちの強みだと思います。
山内:だから、新3Dスタジオのアピールポイントは“最新鋭”、でしょうか……。そしてVICONもOptiTrackもMVNもあるので、「新しいシステムをなんでも触れるよ!」というところかなと思います。
ANYCOLOR新スタジオのモーションキャプチャーエリアで使用されているカメラ。
──ライバーさんや社内スタッフのリクエストにより応えられる環境になったということですね。スペースも広くなり、最新機材も揃ってスタジオがかなりグレードアップしましたが、この環境でやってみたいことはありますか?
藤本:僕は雛壇のあるバラエティ番組の撮影をしたいですね。バラエティ自体は以前からやっていますが、より広いスタジオになったことで大がかりな雛壇で大人数のバラエティを撮りたい。先ほども話に出たように、密集してもちゃんと撮れるようになりましたから。
山内:いいですね。僕は3Dでスタジオを行き来する様子が、配信上でも見せられるようにできるんじゃないかと考えているので、それに挑戦したいです。ケーブルがあればカメラを取り外して好きなところに置けそうだったので、控え室のような場所も一時的なモーキャプスタジオとして拡張することもできそうだなと思ったんです。例えばスポーツの企画をやっていて、メインのスタジオで競技をしつつ、控え室で司会や実況解説席のキャプチャーエリアを作って1つの会場のように見せる、みたいなこともできるんじゃないかなって。
高木:なるほど、そんな使い方ができるかもしれないんですね。発想がすごい……!
発想力が肝、カメラには映らない試行錯誤の一部を紹介
──ANYCOLORの3Dチームでは日々さまざまな3D演出の研究が進められているかと思いますが、直近で配信で使用された新たな技術はどんなものでしょうか。
山内:「にじさんじのB級バラエティ(仮)」(以下、にじバラ)のミニ四駆大会だと思います。
高木:夜見れなさんからハロウィンの3D配信でミニ四駆を走らせたいというオーダーをいただいたのが最初でしたね。それを受けて今年「にじバラ」でミニ四駆の大会をやることになり、ミニ四駆12台と、ライバーさん12人のモーションキャプチャーを実施しました。
【3D大会】にじさんじのB級バラエティ(仮)【#にじバラミニ四駆GP】
──ミニ四駆のレースシーンはスピード感があって、何度も「実写映像じゃないのか?」と思いました。この企画に関する技術の特徴はなんでしょうか。
山内:ミニ四駆にいつも通りマーカーを使うと、ライバーさんが手で車体を持ったときに隠れてしまうんです。そこで、ミニ四駆にマーカーをつける台のような仕組みを3Dプリンターで作りました。それによってライバーさんが持ってもトラッキングが外れず、さらに空気抵抗を意識した形状なので、走りの邪魔にもなりません。
高木:プラスチックの軽い素材ですからね。見た目は、スポーツカーの後ろのウィング部分にマーカーを付けるようなイメージです。
山内:さらにミニ四駆を実際に走らせると、車体の軌道がトラッキングできるんですよ。そうしてその軌道の3Dデータをもとにモデルを起こせば、レース用のコースも作れてしまうんです。
──なるほど……! ここまでお話を伺っていて感じたのですが、スタジオ部、特に3Dチームのスタッフは物づくりが好きな人が多いんでしょうか?
山内:そうだと思います。それこそ僕含めはんだごてを握ってモーションキャプチャーや配信のための機材を作っている人もいますし、自分用の大工セットを持っているスタッフもいます。
高木:そのスタッフ、キャスターで動く自分用の作業机を持ってますよね。
山内:ROF-MAOの大阪城ライブ(「ROF-MAO 1st LIVE New street, New world」)で使ったお神輿もその人が作りましたね。
ROF-MAO 1stライブを支えたスタッフ座談会 “ROF-MAOの熱量に応えたかった”
高木:僕からもその人に七次元生徒会!の「生徒会、使わせていただきます!」で使う机をオーダーしたことがありました。それまでの机ですと足元や、机の下に手が入ったときにマーカーが見えなくなってしまっていたんです。
そのスタッフさんに七次元生徒会で使っている机のモデルと同じサイズで、マーカーが見えるような仕組みで、かつ当時3Dスタジオは狭かったので折り畳み式で……とお願いして(笑)。新しいものを作っていただいてからマーカーが見えなくなることがなくなりました。“大道具屋さん”としても頼りになる、唯一無二の存在です。
現場で役立つのは柔軟性、探求心、そして仕事を楽しむ心
──にじさんじの3D配信を最前線で支える皆さんのお話を伺ってまいりましたが、どういう人が3Dチームのメンバーに向いていると思いますか?
高木:僕個人としては、柔軟性がある人が向いているんじゃないかと思います。先ほどのミニ四駆のコース作りのような「こうしてみたらいいんじゃない?」という発想力もありがたいですが、それにプラスして何かトラブルが起きても冷静に対処できるような柔軟性があればいいですよね。
いろんな物や仕組みを準備をしていても、実際にライバーさんが配信で使おうとしたら「なんだかちがうな?」ということは起きてしまうので、そんなときに冷静に代替案を考えられたらいいなと思います。あとは「ライバーと一緒に面白いものを作りたい!」っていう熱量もあれば!
山内:この部署では「誰のどんな知識がどう活かされるかわからないな」と思うことがあります。僕は吹奏楽部だったので、ライバーさんが楽器を演奏する企画だと構え方をチェックできますし、バイクが好きなスタッフの意見が役に立ったこともあります。何かを3D演出として作り出すためには、ベースとなる知識や発想力も必要だと感じてますね。そのうえで「ここをこうしたらもっと面白くなる!」っていうマインドがある人が来てくれたらいいなと思っています。
あとはこの分野は線形代数の知識が意外と求められるので、数学の知識がベースにあればあるほど考えやすいんじゃないかと思っています。数学をがんばっている学生さんは、より理解度が高まって楽しいかもしれません。
藤本:僕は仕事を楽しむことが大事だと感じています。ANYCOLORはエンタメの会社なので、いろんなことに興味を持って探求できる向上心があれば、仕事にのめり込みやすい気がしていて。自分も仕事をしていて「これは面白いな」「これはすごくきれいだな」と思う場面がたびたびあったので、一緒に仕事をしていてそう思ってくれる人が来てくれたらとてもうれしいですね。
ANYCOLOR新スタジオのモーションキャプチャーエリアの様子。